抄録
近年,様々なリハビリテーションの場面において,応用行動分析学によるアプローチが成果をあげることが多くの実証研究によって示されてきているが,日常生活動作における新たな行動様式を学習する過程を詳細に検討した報告は希少である.今回,脳卒中に起因した運動機能障害によって日常生活動作全般に介助を要した対象者に対して,特に更衣動作とトイレ動作に焦点を当て,練習中の失敗経験を少なくすると同時に,練習中に出現した適応的な行動に対して強化刺激を随伴させる介入を行った.その結果,介入を行なった更衣動作に指数関数的な改善を認めた.一方,トイレ動作は階段状に改善した.しかし,動作障害に影響を及ぼしていたと推測される神経学的および神経心理学的所見には明らかな改善を認めなかった.以上の結果から,今回実施した応用行動分析学に基づく介入は,動作に影響を及ぼす機能障害自体よりもむしろ,更衣やトイレ動作という特定の日常生活に関連する動作の改善に働き,介入による学習過程は各動作によって異なるものと推測された.