こころの健康
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現代学生にみられる強迫的心性とその形成
中島 香澄芳川 玲子
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2001 年 16 巻 1 号 p. 60-68

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抄録

思春期・青年期に見られる精神的な問題には, 強迫的心性が背景に見え隠れしているという。そしてこの強迫的心性は, 従来の強迫性格とは異なり, 素質というより社会文化的な要因によって獲得されたものであるとの指摘がなされている。このことから昨今の強迫的心性は健常な学生にも見出しうると仮定し, 現代の学生にみられる強迫的心性について, (1) その特徴と (2) 形成要因を検討した。(1) に関しては, Leyton Obsessional Inventry (LOI) の日本語版を用い, 強迫症状, 強迫症状への抵抗意識, 妨害意識, 強迫性格の4面から検討した。そして過去の研究データとの比較を行ったところ, 強迫症状への抵抗意識のみがかなり高く変化しており, 強迫的心性は以前よりも強くなっていることがうかがわれた。また (2) に関しては, 臨床研究から指摘されている「過保護・過干渉な親子関係 (以下, 親子関係)」「自ら対処した経験の少なさ (以下, 対処経験)」「自己愛の傷つき (以下, 自己愛傾向)」「セルフ・エスティームの障害 (以下, 自尊感情)」とLOI得点との関連を検討した。その結果, 強迫症状やそれに対する意識 (抵抗・妨害) には親子関係と対処経験, 自尊感情との関連が, 強迫性格には親子関係と自己愛傾向との関連が認められた。とくに症状やそれへの意識は対処経験との関連が強く, 青年期にいたって自らの経験不足に気づくことが症状の発生に強く作用していることが推測された。また強迫性格は, 過保護・過干渉な親子関係の中で几帳面さやまじめさを求められ, その獲得とひきかえに自己愛を満たされてきた経緯がうかがわれた。したがって健常な学生にみられる強迫的心性にも, 臨床例にみる要因が関与していることが推測された。

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© 日本精神衛生学会
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