医療機関での自殺未遂者への対応は,自殺予防のために重要な課題である。自殺企図者に関する研究は主に高度救命救急センターで行われてきたが,それ以外の二次救急病院や精神科医療機関の受診の実態を知ることも重要である。一方,自殺未遂者の再企図を防止するには,医療者が未遂者の死ぬ意図や自殺未遂歴を確認することが重要だが,医療者は未遂者を回避しがちだと報告されている。そこで本研究では,一地域の複数の救急医療機関および精神科医療機関を受診した自殺企図者の比較と,このうち死ぬ意図を確認した症例の割合,さらに医療者が死ぬ意図を確認した症例としなかった症例の比較を目的として,大分県東部保健所管内の26医療機関を6カ月間に受診した自殺企図者63例について検討した。このうち救急医療機関受診者(救急病院群)は45例(71%),精神科受診者(精神科群)は18例(29%)だった。救急病院群では,手段の半数が過量服薬で,約6割が精神科通院中だった。その転帰は入院が約半数,帰宅が約3割,既遂者が約1割だった。精神科群も企図手段や転帰は同様だったが,身体的には重症でない症例が,身体状態が落ち着いてから,日中にふだん通院している精神科に受診した場合が多いと推察された。精神科群では89%,救急病院群では53%について,死ぬ意図の有無を確認していた。救急病院群でこれを確認しなかった症例は,年齢が低く,夜間搬送・致死性の低い手段による企図・帰宅が多かった。つまり,医療者は,身体的に軽症の場合に死ぬ意図を確認しない傾向にある。さらに,救急病院群では死ぬ意図と自殺未遂歴の一方しか確認していない症例も多く,自殺リスクの系統的なアセスメントが行われていないことが推察された。救急医療スタッフが自殺企図患者の自殺リスクを系統的にアセスメントできるツールや,患者を適切な援助機関につなぐためのシステムを開発することが,急務と考えられる。
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