日本蚕糸学雑誌
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桑園生産力に及ぼす諸因子の影響
上村 親士古賀 進橋本 昭彦松石 直樹鳥浜 義巳西口 達郎篠原 公人
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1997 年 66 巻 3 号 p. 176-191

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抄録

桑園生産力は土壌型により大きな差があるが, その原理を明らかにするため各種の影響因子について試験した。試験成果は栽桑・育蚕上, 効果の大きい順序, 直接および間接に及ぼす潜在的な効果の観点から取りまとめた。
1. 桑の生長と収量に対し最も大きな影響を有する因子は土壌からの窒素の供給であった。桑は年間N30kg/10aの施用に対し, 窒素の集積量は25.3kg/10a程度あり, その利用率は高かった。即ち, これが栽培上の leading factor となっている。その影響の範囲は無窒素区の生育が他の一般作物と同様30%以下になるケースが多く, 通常の栽培条件下では全栽培要因の50%以上の要素を占めていると考えられる。
2. 窒素の利用率は高いのであるが, 1~2回程度の窒素無施用の影響では, 約10%程度の減収にしかならず, 一般作物の減収率50%以上とは比較にならない程小さな影響であった。
3. この原因として, 根群の深さの相違が考えられた。桑の細根の発達は深さ60cmまで密であり, それ以上の深さの土層への拡がりも認められた。また, 施用した窒素肥料の土層中の分布も帯状を成して約半年以上深さ1mまでの土層に留まり, 根群と窒素肥料が常にどの位置かで接触することが判明した。
4. 肥料の種類による収量の差は, 施用窒素と根の接触の機会が多いこともあって, 最大20%通常はおおよそ10%程度の増減になる場合が多かった堆肥等有機物の施用は, 土壌の有機物含量や土壌型によって差があるが, 地力が高く根圏も大きな桑園では, その影響は単年では10%以内の増減となり, 影響はあまり大きいものではなかった。堆肥の連用は地力維持の為で, 年々の小刻みの差が積み重なって効果を示すので欠かすことはできない。
5. 桑の仕立・収穫法は, 桑の樹勢と直接関係があり, 収量には通常10%程度の差があるが, 収穫過剰になれば, 樹勢が衰え耐病性が著しく低下する。晩秋蚕期の過剰収奪は秋の養分貯蔵を著しく阻害して, 桑の病害に対する防御機能が未発達となり, 樹が消耗したまま越冬するので, 冬期間の桑芽枯病の被害が甚大になった。その影響は翌年周年影響することも認められた。春蚕期, 夏秋蚕期の過剰収奪は夏秋期の樹の消耗を招き, 病害に対する抵抗性を著しく損ない, 桑萎縮病が激増した。即ち, 仕立・収穫法は桑の樹勢回復と効率的な収穫による安定多収穫を目指すものである。
6. 潜在的にリン酸の欠乏した多腐植質火山灰土壌に対するリン酸施用の効果は, 経済的に可能な通常の土壌改良では最大約30%の増収が観察されたが, 通常はこれ以下であった。
7. 桑園の生産性は桑の生産効率だけでなく育蚕の生産効率も含まれ, 古くは蚕の健強性, 繭の大きさと葉質の関係に関する研究が多かったが, 暖地では現在も桑葉質と蚕の耐病性の関係が重要である。多腐植質火山灰土壌におけるリン酸施用の効果は細胞質多角体病 (CPV), ウイルス性軟化病 (FV) に対して10~100倍の耐病性強化の効果が認められた。窒素の多施用による葉質低下の影響は核多角体病 (NPV) に対する耐病性の低下として認められた葉質低下をもたらす日照不足の遮光区は, 蚕のウイルスに対する対病性の影響を発現する前に, 人工飼料として育たない程度まで葉質を低下させた。
8. 桑園生産力を支える個々の要因とその影響の度合は以上に述べた。桑樹は根圏の拡がりと深さが大きいので, 一般作物では確認できない深層の土壌母材の影響を強く受けていることが判明した。

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