2011 年 68 巻 8 号 p. 540-549
野蚕絹フィブロインは,産生する蚕種により,一次構造も物性も異なる多くの種類が存在する.その物性の違いは,一次構造の違いとそれに起因する高次構造の違いに由来する.すなわち,野蚕絹フィブロインの一次構造を利用した絹様タンパク質を創出することにより,利用する野蚕種による物性の制御が可能となることを示唆している.しかしながら,家蚕絹フィブロインが,生体材料分野への応用に向けた多くの研究がなされているのに対し,野蚕絹フィブロインの研究は,ほとんど進んでいない.そこで,筆者は,野蚕絹フィブロインの構造に基づく新たな絹様タンパク質の生産を目的とした研究を行った.本報では,絹フィブロインの構造と力学特性について概説し,2 種類の野蚕絹フィブロインの特徴的な一次構造を利用した細胞接着能を有する野蚕絹様タンパク質の設計と生産についてまとめた.