方言がフィクションで利用されることはよくあるが、具体的な作品をみてみると、今でも標準語や「女ことば」が中心に用いられ、さらに方言使用にも序列があることが分かる。東北、関西、そして静岡を舞台とする地域ドラマと内田康夫の旅情ミステリー作品を対象に、方言がいかに表象されているのか調査した結果、関西方言は主要な役を含め、出身者でなくとも用いることもあるほど肯定的に描かれている。一方、東北方言は田舎のイメージを引き出すために端役中心に用いられる程度で、静岡方言にいたってはさらに限定的で、全く使用されないことが多い。静岡という地域のイメージがそれほど田舎性を帯びていないのに、具体的な静岡方言が田舎のイメージをもっているため、使用が制限されていると思われる。方言は地域アピールとして有効な場合に限り使用されることが分かった。このようにして、フィクションでの使用・不使用を通して方言イメージが再生産されていく。