2021 年 42 巻 p. 39-53
「女性語」が、女性は男性よりも丁寧に話すべきであるというような言葉に関する規範意識によって形成されてきたことは、言葉とジェンダー研究によって近年明らかにされてきた。本論は、そのような規範が生まれる背景を、language governmentality、すなわち「規律権力」による言語への“統治”という考え方を通して、近代と現代の事例を交えながら論じている。近代の言語政策においては、女性に対する言葉遣い規範が女子教育体制の中の「潜在的」言語政策として実践された。現代の例では、性差別語を適切な言葉へ言い換えることにおいて、それを「言葉狩り」だとして批判し「表現の自由」を訴えることが、結果的に差別表現の是正を求める声を無化するような「潜在的」言語政策として働いたという可能性がある。