ことば
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42 巻
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巻頭言
個人研究
  • ―東北が舞台になるとヒロインは共通語を話す―
    熊谷 滋子
    2021 年 42 巻 p. 3-20
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    東北方言が田舎イメージで表象され続けていることを2021年に放送されたNHKドラマから検証する。NHK連続テレビ小説は、舞台となる地域の方言を主人公が使う傾向がある。しかし、東北を舞台にすると、主人公や主要な役には共通語か「薄い」方言程度でにごし、地元の年配男女、林業・漁業従事者に東北方言を使わせる。後者に「田舎イメージ」をもたせるためである。また、使用する東北方言は濁音化とその他のわずかな特徴に単純化され、ステレオタイプ化されている。さらに、大阪を舞台にするドラマではほぼ全員が大阪方言を使用するため、大阪方言非母語話者の俳優は努力してマスターしようとするのに対し、東北方言の場合は主人公や主要な役はあまり方言を使用しなくてもよいといったことから、方言への意気込みにも方言の格差がある。多様性を唱える2000年代でもこの状況である。

  • 小林 美恵子
    2021 年 42 巻 p. 21-38
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    映画『何者』などで男子大学生どうしの親密さを表すものとして、中性化しないいわば「男性特有」の話し方(形式)が存在する。このような話し方が自然談話ではどのように現れるかを『談話資料・日常生活のことば』において検討した。その結果、全体では1/5程度の男性話者がこのような話し方をしていること、特に20代と60・70代にめだつことがわかった。その理由は対話の相手との関係(親しさなど)によると考えられる。また、特に高年代では使用のバリエーションや現れ方が多様で、映画に現れる高年代の男性のことばや話し方とは必ずしも同じようではないということもわかった。

  • 斎藤 理香
    2021 年 42 巻 p. 39-53
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    「女性語」が、女性は男性よりも丁寧に話すべきであるというような言葉に関する規範意識によって形成されてきたことは、言葉とジェンダー研究によって近年明らかにされてきた。本論は、そのような規範が生まれる背景を、language governmentality、すなわち「規律権力」による言語への“統治”という考え方を通して、近代と現代の事例を交えながら論じている。近代の言語政策においては、女性に対する言葉遣い規範が女子教育体制の中の「潜在的」言語政策として実践された。現代の例では、性差別語を適切な言葉へ言い換えることにおいて、それを「言葉狩り」だとして批判し「表現の自由」を訴えることが、結果的に差別表現の是正を求める声を無化するような「潜在的」言語政策として働いたという可能性がある。

  • A historical study of Japanese second person pronoun kimi
    れいのるず秋葉 かつえ
    2021 年 42 巻 p. 54-71
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    欧米言語学研究においては、人称代名詞は比較的安定したカテゴリーで、歴史的に変化することが少なく、他言語からの借用もほとんど例がないとされてきた。しかし、代名詞の変化・借用の例はないわけではない。とくに、日本語の人称詞は、ほとんど常に変化してきたし、中国語からの人称詞の借用の例も数えきれない。ここでは、現代日本語の二人称代名詞である「君」が、かつては「君主」の意味を持つ名詞であったこと、江戸後期実証学的儒学者たちの間で対等関係の二人称として漢語「足下」が使われるようになり、さらに国学者たちの間で「君」が「二人称」として使われるようになったことを書簡例によって検証する。明治期には自称詞「僕」に対応する二人称として文化的上流階級の間で広がったが、「僕」ほどには一般に広がらず、現在では、目下・年下・女性に対して使われる傾向が見られ、「君」がメジャーな二人称として存続する可能性は少ないと推測される。

  • ―実態と規範をめぐって―
    林 みどり, 大島 デイヴィッド義和
    2021 年 42 巻 p. 72-89
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    付加的呼称詞「くん」はもっぱら男性に対して用いられるのに対し、「さん」は対象の性別を問わず用いられる。たとえば大学教員が女子学生を「さん付け」、男子学生を「くん付け」するなど、同様の対人関係にある人物に対して性別に応じて「さん」「くん」を使い分けることはよく見られる。近年、ジェンダー中立性・包括性への意識が高まるなか、このような慣行を好ましくないとみなす言説が散見される。本稿では、指示対象の性別に応じた呼称詞の使い分けに関する実態調査と意識調査の結果を報告し、現状の分析を行う。「性別に応じて呼称詞を使い分けることが場面によっては問題になりうる」という意見が存在することを「認知」している回答者が40%を上回った一方、これに「賛同」する意見の者は20%を下回った。この結果は、現状では同意見が広く受容されているとはいえないことを示唆している。

  • 髙宮 優実
    2021 年 42 巻 p. 90-107
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    近年、多様性の進む日本において、「ブラック企業」という語は差別語なのではないかという議論がなされている。アメリカで日本語を学ぶ大学生134名に、2年間にわたり、このテーマに関連した多数の新聞記事や動画を紹介し、その後、学習システム上のディスカッションボード(電子掲示板)を使用して学習者同士が議論する場を設けた。そのディスカッションボードで行われた学習者同士の議論を分析した結果、この語は差別語ではなく使い続けることに問題がないという学習者が51%、問題であるという学習者が28%、どちらとも言えないという学習者が21%いて、立場が分かれることがわかった。また、どの立場の学習者からも、変更するとしたらどのような語が考えられるかという代替案が提示されていた。投稿の分析からは、いずれの立場の学習者も、他者の意見を肯定しつつ自分の立場を表明しており、それが外国語教育の目的である相互コミュニケーション能力の獲得につながる第三次社会化の過程となっていることが確認された。

  • 金 玉英
    2021 年 42 巻 p. 108-125
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では、行為要求表現「勧誘」において「聞き手意志」が文末形式にどのように関連しているかを考察し、聞き手の意志をめぐる観点が文末形式の使い分けの説明に有効であることを示す。具体的には以下の2点を論じる。①「聞き手意志配慮」の観点から勧誘の位置づけと主な文末形式について述べ、聞き手意志配慮と文末形式との対応関係を示す。②「聞き手の意志をめぐる文脈的条件」が勧誘を表す文末形式の使われ方にどのような影響を与えているのかを考察し、意志疑問形「しようか」には先行研究の指摘や予測の範囲を超える事実が見られることを指摘する。そして、勧誘表現の「しようか」は「話し手と聞き手が一体化される」環境を必要としており、融合度が最も高い「一体型勧誘」として特徴づけられること、下降イントネーションで発話される肯定疑問文「するか↓」は「しようか」と全く同じ傾向を示していることを主張する。

  • 加藤 恵梨
    2021 年 42 巻 p. 126-143
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は『児童・生徒作文コーパス』を資料とし、小学1年生から中学3年生までの児童・生徒が「たのしい」という形容詞をどのように用いているのかを、感情の誘発要因に注目して分析を行った。その結果、「たのしい」と表現する際の感情の誘発要因には、①自身が体験したこと、②他者と一緒に体験したこと、③ある行為の上達を感じたり、達成感を得たりしたこと、④自身が今後ある行為をすること、⑤他の人がある行為をする様子、⑥他の人が今後ある行為をすること、⑦他の人が自身にある行為をしてくれたこと、という7つがあることが明らかになった。また、学齢によって「たのしい」と表現する際の感情の誘発要因が異なっていることについて述べた。

  • ―主語名詞の相違を中心に―
    吉 甜
    2021 年 42 巻 p. 144-162
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    日中両言語における同形同義語には、文体的な相違があることが指摘されてきた。しかし、文体的な相違で説明できないAT同形同義語が存在し、その相違は主語名詞の使用に関わる。本稿では、主語名詞の相違を中心に分析・考察した。その結果、日本語では動作動詞かつ他動詞として使われる同形同義語(以下:AT同形同義語)の使用はその漢語の基本義と使用場面から制限されているのに対し、中国語ではそのような制限が弱いという相違を明らかにした。そして、中国語との対照から、日本語における漢語動詞と和語動詞は文体的な対立があるだけではなく、漢語動詞である同形同義語は、具体的な動作・行為を表す場面でのみ使われるのに対し、その同形同義語に対応する和語動詞は、抽象的、比喩的な場面においても用いられることも明らかにした。

  • 儲 叶明
    2021 年 42 巻 p. 163-180
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、中国語母語話者による雑談の分析から、会話の場にいない第三者についてのゴシップを語る際に、話し手はいかに人称代名詞を利用して聞き手を巻き込み、自身と対立する立場にある第三者との対立関係に、聞き手を誘い込むかを分析した。分析の焦点として、二人称代名詞「你(Ni)」の聞き手を指示しない用法を取り上げ、それらの語用論的機能と社会指標的意味合いを探究した。本稿の事例の分析からは、中国語母語話者が相互行為の場にいない第三者のゴシップを語る際に、聞き手を指示しない二人称代名詞の「你(Ni)」を、先行文脈で一度登場した人物を指し示す三人称代名詞「他(Ta)」と並置することが見られた。話し手はこの操作を通して、聞き手に臨場感を与え、聞き手と話し手を同一化するだけではなく、先行文脈における登場人物を他者化し、結果的に聞き手を登場人物との対立関係に誘い込むと見られることがわかった。

  • 関 玲
    2021 年 42 巻 p. 181-198
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿では、話し手がTCU(ターン構成単位)を産出している途中に、受け手によって用いられる「へー」を研究対象とし、「へー」の産出とターン取得とのかかわりを論じた。まず、「へー」が単独で使用される場合、受け手は「へー」を用いて、話し手が伝えた特定の情報をニュース性のあることとして捉えたことを標示することで、話し手にTCUの続きを産出する機会を与えていることがわかった。また、「へー」が他の言語要素と一緒に使用される場合、「一時的」にターン交替が引き起こされ得る一方、ターン交替の競合という現象が引き起こされる場合もあることが明らかになった。いずれの場合においても、「へー」の産出者がどのように「へー」を産出するか、そして「へー」の受け手がどのように「へー」を理解するかによって、相互行為の展開が異なることを示した。

  • ―直前の話題との関連性という観点から―
    方 敏
    2021 年 42 巻 p. 199-215
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究は直前の話題との関連性から初対面以降の会話における話題選択を分析したものである。分析の結果、⑴話題選択の型について、初対面会話で最も多いのは「A-1 新出型」であり、次に多いのは「B-2 派生型」であった。2回目以降の会話では「A-1 新出型」が減少し、「A-2 文脈無関連の再生型」が多く使用されるようになった。⑵話題選択の型と話題の種類とのつながりについて、初対面会話では話題選択の型に関係なく、どれも三牧(1999)の話題選択肢リストに当てはまる話題が多く選択されている。一方、2回目以降の会話では話題選択の多様性を示している。そして、プライバシーにかかわる話題の多くが「B-2 派生型」か「A-1 新出型」により導入される傾向がある。

  • ―前置き連鎖が利用されていない事例に着目して―
    許 家瑶
    2021 年 42 巻 p. 216-232
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    会話分析というアプローチでは、会話参与者たちの物語を語る行為に、またいかに語るか(物語を語る方法)に重点を置いている。会話参与者は物語の前置き連鎖(story preface sequence)を利用して物語を語ることを予告している(Sacks 1974)とされる。一方、李(2000)の研究では、日本語会話の中で、前置き連鎖が必ずしも用いられるとは言えないことを明らかにしているが、具体的にどのように物語を語り始めるかについてはまだ不明である。そこで、本稿では、二つの事例において、会話参与者が明白な予告をせずに、いかに物語を語る機会を作り、物語を語り始めるかを明らかにした。分析の結果として、前置き連鎖を用いないことによって、会話参与者が相手の発話に敏感に反応し、慎重に相手への同調や説明という行為を完了することが分かった。

  • ―日本語母語話者と比較して―
    牛 晶
    2021 年 42 巻 p. 233-250
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究では、ロールプレイを文字化したコーパスデータ(I-JAS)を利用し、日本語母語話者と中国人学習者が用いる依頼の前置き表現の異同について考察した。考察の結果、以下の4点が明らかになった。

    ① 日本語母語話者と同様に、中国人日本語学習者も頻繁に前置き表現を用いている。

    ② 前置き表現を対人配慮型と伝達性配慮型に分けると、日本語母語話者はどちらも同じ程度使っていたが、中国人学習者は伝達性配慮型の使用が多かった。

    ③ 日本語母語話者にも中国人学習者にも丁重付与と話題提示の前置き表現が一番多く用いられた。

    ④ 日本語母語話者と中国人日本語学習者それぞれが多く用いる前置き表現において配慮意識に差異が見られた。

  • ―その文章的価値と女専時代の思惟をめぐって―
    遠藤 織枝
    2021 年 42 巻 p. 251-268
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    2019年秋に借用できた寿岳章子さんの9冊の日記帳について、その文章面での特徴と女子専門学校(以下「女専」)時代の日記の内容を報告する。文章は初期の長文のものから簡潔なものに移り、自然描写は美しく、社会・世相は躍動的に描かれる。比喩、オノマトペなど自由闊達な表現が各所にみられる。女専時代の日記からは、読書の考察の深さ、本人が後に言う「言葉も出なくなる程」凄絶だった受験勉強の実際、女学生時代とは変化した戦争観などが読み取れる。

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