ことば
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Print ISSN : 0389-4878
個人研究
若松賤子が用いた丁寧語へのまなざし
―口語体のジェンダー化に伴う評価の変容―
深澤 愛
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2024 年 45 巻 p. 3-20

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抄録

本稿では、明治20年代に「です」「ます」を基調とした言文一致体の作品を発表した作家、若松賤子の文体に対する明治20~40年代の言説を分析した。明治20年代は丁寧語の使用について言及がないのに対し、明治30年代になると丁寧語を賤子の文体の特色とし、賤子が女だから丁寧語を用いたと理解されるようになる。また、ジェンダーを観点とする評価は、賤子と同時期に丁寧語を言文一致体へ導入した男性作家に対する言説には見られない。賤子の文体への評価が以上のように変容した要因は明治30年代に確立した口語体にある。口語体は確立と同時にジェンダー化し、口語体の下位区分である敬体は女にふさわしい文体と認識されるようになった。このときできた文体観は、さかのぼって口語体確立前の明治20年代における言文一致の実践に対する理解にも適用されるようになったのである。

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