抄録
いま社会学の復権に必要なこと。それは現代社会の危機を的確に診断し、その解決に向けての処方を呈示できる理論、方法の創出であろう。しかしわたしはそうした営みと平行して今一つ必須の作業があると考えている。それは、ひとびとの日常生活の次元にまでおりたち、日常的な営みに孕まれているさまざまな問題を微視的なまなざしで解読していく社会学を創造することである。それは「日常性との闘い」とでもいえる、常識的知への徹底した相対化のまなざしから成る生活者の社会学の創造である。本稿では、そのために最小限必要だとわたしが想起する事柄についてラフにまとめておきたい。それらは、(1)自らの社会学的関心の源泉となる原体験を掘り起こし、取り戻すことであり、(2)日常を臨床することの意義を問い、(3)語り手・読み手への想像力を磨きつつ、(4)質的で微細なフィールドワークを洗練させるセンスを養っていくことである。いま社会学を豊かな実践として変貌させていく重要な契機。それはマクロな社会現象にいかにして社会学がたちむかうのかということにあるとともに、いかに微視的で詳細な質的な社会学調査研究を実践し、その成果を日常のひとびとの暮らしに投げ返していけるのか、という点にもあるのだ。