2016 年 15 巻 p. 79-91
本報告は、筆者が他の社会学者とともに、原発事故の影響にともない福島県富岡町から避難している住民らを対象に、2011年秋よりおこなってきた聞き取り調査の結果から、原発事故避難者が置かれている実情を取りまとめたものである。分析の結果から主に次のことが明らかになってきた。1)避難者が抱える問題は極めて広範かつ複雑であること、2)しかしながら、こうした問題が政策の現場では正確に認識されていないこと、3)そのため、現行の政策が必ずしも十分な被災者救済に繋がっていないこと、4)一方で、地域復興に向けた政治的決定が急速に進み、被災者が抱える問題は深刻化の一途を辿っていること、5)その背後には地方自治を取り巻く我が国の法制度と、6)問題の深刻化を後押しする世論の存在を否定できないこと。
これらは、現行の復興政策が据えている前提(=原地復興と早期帰還)と原発事故避難者が直面している問題(生活再建と長期スパンでの帰還)との間の乖離故に生じており、このままでは現行政策の破綻、あるいは、被災元自治体の消滅すら現実に起こる可能性もある。