1990年代後半以降、社会学的な視座から質的な調査手法に依拠して、障害カテゴリーに関わる教育現象にアプローチしようとする経験的な研究が蓄積され始める。本稿では、こうした動向を念頭に、障害児の教育を対象とする社会学的な先行研究をレビューし、今後の障害児に関わる教育現象の調査において採用しうる研究指針を提案する。
第2節では、1970年代以降に高揚する障害者の就学運動を題材とする諸研究を検討し、障害児のインクルージョンを要求する運動がどのように推進されたのかを整理する。第3節では、通常学校での障害児教育をテーマとして蓄積されてきた主要な先行研究を素描し、加配の配置による通常学級での障害児支援に伴う問題を析出する。
その後に、とある小学校を事例とし、エスノメソドロジー研究における成員カテゴリーに関する知見を手掛かりとしながら、全盲児の処遇について分析し、メンバーシップの配分という水準でインクルージョンについて考察することの重要性を提起する。ここでの考察から改めて浮き彫りとなるのは、共成員性を基盤として障害児と健常児との間に生起する日常的な相互作用・コミュニケーションに照準した経験的研究の必要性である。
最後に、教室空間でのインタラクションに加え、障害児支援のネットワークが構築されていく過程もまた、障害児の教育を対象とする社会学的調査研究にとって重要な探求課題となることを指摘する。