2018 年 17 巻 p. 202-215
生活のなかにおける障害をどのように記述し説明するかという課題は、認識上の課題であると同時に、それが障害をめぐる社会関係の一部をなしているがゆえに道徳的な課題である。したがって、その記述と説明をどのように組織するかという課題は、社会学者以前に社会成員の課題である。
本稿はこうした視点のもとに、ある精神障害者を対象とした当事者研究会における相互行為を検討する。そこでは、感情的なトラブルの経験について、その経験そのものに対してではなく、それを記述・説明する仕方そのものが主題化され、その方法の転換が成し遂げられる。当初、家族における道徳的問題として記述されていたトラブルは、この結果、身体を原因したそれへと、本人自身によって書き換えられていく。
本稿は、このような相互行為を記述することにより、精神障害にかかわるトラブルの記述・説明方法の転換を共同で成し遂げるための技法のひとつを明らかにする。そのうえで最後に、こうした技法が精神障害者の地域生活支援に対していかなる意義をもつのか考える。