フォーラム現代社会学
Online ISSN : 2423-9518
Print ISSN : 1347-4057
特集 アートと社会/地域の現在―瀬戸内から考える
アートはなぜ地域に向かうのか
―「社会化する芸術」の現場から―
吉澤 弥生
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2019 年 18 巻 p. 122-137

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抄録

「アートプロジェクト」はアーティストが中心となって地域の人々などと共に制作・実施するもので、2000年以降日本各地に広がった現代アートの一形式だ。里山の廃校、まちなかの空き店舗などを舞台に多様な形態で行われている。

これらの広がりは、アーティストが自らの表現と発表の機会を追求する動きと、地域活性、産業振興、社会包摂などの社会的文脈でアートを活用しようとする文化政策の動きが合致したことで生まれた。なかでも国際芸術祭は地域活性の核として期待されている。そして実際、地域の特性や課題に向き合いながら、固有の資源を発掘し、新たな価値を生み出したプロジェクトもある。こうしたアートの手段化には批判もあるが、多様なアクターの協働によって日常生活の中からアートが立ちあがる過程を明らかにすることがまず重要である。

一方で現場には、プロジェクトの参加に関する住民の合意形成、現場を支えるスタッフの長時間労働、働き方と就労形態の不合致、低賃金、社会保障の不在といった問題とキャリア形成の困難が存在する。これは日本社会全体にも見られる「自発性」「やりがい」を盾にした低賃金・無償労働の圧と共通するものだ。

今後はこれらの問題と向き合いつつ「なぜアートなのか」を問い続けながらのプロジェクト実施が望まれる。2020年に向けて文化政策におけるアートの手段化は一層進むが、成果主義では測れない価値を表現する評価方法も必要だ。

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© 2019 関西社会学会
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