フォーラム現代社会学
Online ISSN : 2423-9518
Print ISSN : 1347-4057
論文
〈固有の私らしさ〉の構成過程
―死、あるいは身体の有限性という観点から―
津田 翔太郎
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 22 巻 p. 33-45

詳細
抄録

本論は、「ポストヒューマン」という思想的潮流、あるいはアイデンティティ構成が困難な人々の実践において着目されている〈固有の私らしさ〉の構成過程を、「死」、「身体の有限性」という概念を参照し、具体化を試みるものである。

ポストヒューマンの議論においてアイデンティティは、「身体として任意の場所に埋め込まれているもの」として位置づけられている。他方で実践領域においては、リキッド・モダニティの進展によって「人々の傷つきやすさ」が露呈するものの、〈固有の私らしさ〉に基づいてアイデンティティを構成する行為者も見受けられる。

このような〈固有の私らしさ〉は、「自我同一性」、「自由意志」、「私秘的内面世界」という前言語的な志向性によって存立するとともに、それらの起点として「今ここの身体」が想定される。そして今ここの身体は、「死」という結末に基づいて〈固有の私らしさ〉を構成する。この視座について「ヴァルネラビリティ」概念を参照すると、「〈現在の私〉が身体の有限性を自覚することで経験を構造化し、『いきいきとした生』につながる〈固有の私らしさ〉を構成する」と考えられる。

そのような〈固有の私らしさ〉は、「自己の語りえなさ」、「混沌の語り」に依拠した他者志向的な心性として捉えられるため、他者受容がその構成に際して重要となる。

以上の議論は、今日の社会において「いきいきとした生」をかたち作るための視座の明示化に貢献しうる。

著者関連情報
© 2023 関西社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top