2025 年 24 巻 p. 13-26
本研究は企業による独身寮における労働者への介入を可能にしている論理を特定し、その分析を行う。1960年代から1970年代半ばごろにかけての独身寮では生活する労働者を捕捉する「人間管理」という業務が推奨されてきた。これは企業生産に適合的な主体を形成しようとする「生活指導」を中心とする業務である。しかしこうした業務は戦後に成立し普及した労働者の私生活自由を保護し、企業による干渉を戒める規範と対立する。そこで本研究は独身寮管理実践を支える労務管理言説に着目することで、そうした規範の回避及び実践の正当化を可能にしている論理を特定する。
分析の結果明らかになったのは、対象に未熟さを見出しその未熟さを根拠として介入を正当化するという論理である。それは集団就職によって新規に産業に参入してきた若年労働者の「若さ」を資源として、対象にあるべき主体への駆動を要請できる「教育のロジック」だった。本研究ではこの「教育のロジック」によって、労使や管理関係とはまた異なった形で独身寮管理実践が意味づけられていることを指摘する。