抄録
ナシ萎縮病の罹病樹に対して,治療を目的とした腐朽材組織の切削や主枝の剪除が行われているが,処理後の翌年にも葉における病徴が発現する事例がある。本研究では,腐朽材組織の除去と発病の関係を調査するため,病原菌を接種し発病させた罹病苗を供試して,腐朽材組織の除去試験を行った。腐朽材組織を除去しなかった無処理苗は,処理の翌年は11樹中7樹が発病し,翌々年は10樹中3樹が発病し,4樹から接種菌を再分離できた。接種源を含め,接種部位周辺の材質腐朽部位を,健全部との境界である赤褐色部位が目視で見えなくなるまで削り取った切削苗は,処理の翌年は9樹中7樹が,翌々年は9樹中4樹が発病したが,接種菌は再分離されなかった。また,接種による腐朽部位よりも基部側で主幹を剪除し,その後は切断部位よりも基部側から発生した徒長枝を活かした剪除苗は,処理の翌年は9樹中4樹が発病し,翌々年は発病した樹はみられず,接種菌は再分離されなかった。腐朽材組織を完全に除去しても,翌年に葉における病徴が発現する苗があったことから,上記の原因としては,何らかの病徴発現物質が存在し,それが樹体内に蓄積して萎縮病の病徴を引き起こしている可能性が示唆された。