関東東山病害虫研究会報
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特別講演
  • ― 微生物利用による防除の再考 ―
    後藤 千枝
    原稿種別: 講演記事
    2022 年 69 巻 p. 1-8
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    農業を含む全ての産業にSDGsの達成に向けた努力が求められるなか,農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定し,「化学農薬の使用量50%低減」ならびに「有機農業の取組面積割合を25%に拡大」を目標に掲げた。目標達成には生物的防除法のさらなる活用が不可欠であることから,今後,微生物農薬の需要も拡大すると考えられる。しかし,日本における微生物農薬の登録件数や出荷量の推移はこの数十年間横這いで,本分野の技術開発や実用化の停滞を示唆している。他方,EUや米国では,微生物農薬の登録件数は近年増加傾向にある。農薬登録されている微生物の種類は日本よりも多く,殺虫剤ではバキュロウイルスや昆虫寄生性線虫,殺菌剤では糸状菌の実用化が進んでいる。今後,日本においても,新たな素材の発掘や既知の素材の再評価による微生物農薬の充実が望まれる。加えて,土壌改良材やバイオスティミュラントなどの多様な形態での微生物利用も視野に入れ,新たな病害虫管理体系の構築と農業現場への定着を進めることが必要である。

畑作物・野菜の病害
  • 山内 智史, 吉田 重信
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 9-12
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    2016 年 2 月,茨城県内のビニールハウスで育苗されていたミズナの子葉に,淡褐色,不整形の病斑を形成し,病斑裏面に白色粉状のかびを生じる病害が発生した。病斑部から分離された菌株 Mizu-1 の分生子柄は 5 〜 6 回分岐,先端に分生子を形成した。分生子は無色,球形〜楕円形,大きさは 19 〜 22 × 21 〜 26 μm,長径 / 短径は 1.0 〜 1.3 であった。さらに,本菌の rDNA-ITS 領域の塩基配列は Hyaloperonospora brassicae と100%一致した。また,本菌をミズナに接種したところ,原病徴が再現されると共に,子葉で高頻度に分生子および分生子柄が形成されるのに対して,本葉では形成されにくい傾向かが認められた。さらに,アブラナ科野菜類の中でコマツナ,ハクサイ,カブ,チンゲンサイに病原性を示した。以上の結果より,分離株 Mizu-1は H. brassicae と同定され,本菌によるミスズナの病害をミズナべと病と呼称することを提案する。

  • 石山 佳幸
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 13-15
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    長野県のレタス産地では,レタス黒根病を含む土壌病害が発生し,問題となっている。レタス黒根病に対する 感受性には品種間差異があることが報告されているため,長野県で栽培されている結球レタス 19 品種および非結球レタス 20 品種の感受性の差異を調査した。その結果,結球レタスでは「パスポート」,「ファンファーレ」,「ルシナ8」は温室内の接種試験および現地圃場試験のいずれでも他の品種と比較して発病が軽微であり,感受性が低く,レタス黒根病対策として実用性があると考えられた。また,非結球レタスでは「グリーンジャケット」,「ウオームグリーングラス」,「ノーチップ」,「あゆり」は発病が他の品種と比較して軽微であり,感受性が低かった。

  • 中田 菜々子, 髙橋 真秀, 鐘ヶ江 良彦
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 16-18
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    Phytophthora colocasiae により引き起こされるサトイモ疫病は国内で古くから知られている病害であるが,近年になって深刻な被害が報告されはじめた。千葉県でも 2016 年以降被害地域が拡大し,収量低下が問題となっている。サトイモは栄養繁殖性の植物であり,種芋として用いる塊茎が伝染源のひとつと考えられている。そこで,発病圃場より収穫した塊茎から,ベイト法を用いて本菌の検出を試みた。その結果,調査に用いた収穫直後の 11 月の塊茎と土中保存後の 4 月の塊茎のいずれについても本菌が検出された。また,他病害に対して種芋処理の適用がある殺菌剤を処理した塊茎を 1 ヶ月間ポットで栽培した後にも本菌は検出された。以上のことから,発病圃場から得た塊茎はサトイモ疫病の伝染源となる可能性が高いと考えられた。

  • 井上 浩, 竹元 剛, 佐古 勇, 谷口 美保
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 19-26
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    鳥取県西部に位置する弓浜半島のネギ黒腐菌核病常発現地砂畑生産圃場において,8 月上旬から 9 月上旬植付け,3 月収穫の根深ネギ春どり作型で,2015 年から 2019 年にかけて薬剤による防除効果試験を行った。供試した 7 薬剤のうち,SDHI 剤 4 種の効果が高かった。なかでもピラジフルミド水和剤の散布は,他の株元灌注,株元散布,散布剤に比べ安定した防除効果を示した。ピラジフルミド水和剤の 2,000 倍液を 9 月下旬および 10 月中下旬の 2 回,キリナシノズルを用いて 300 L / 10 a 相当量を散布することで,感染株であっても症状が軽微であり,高い効果が認められた。圃場における黒腐菌核病の感染動態を調査したところ,感染は 10 月中下旬に起こることを明らかにした。一方,ピラジフルミドのネギ茎盤部付近の濃度推移を調査したところ,薬剤が根や茎盤部において菌糸伸長抑制濃度まで到達するのに 2 週間を要することを確認し,このことは感染前 9 月に薬剤散布することで防除効果が安定することと一致した。以上のことから,ピラジフルミドの 9 月下旬,10 月中下旬の 2 回散布は,根深ネギ春どり作型に発生する黒腐菌核病に対し高い防除効果を示し,また慣行の土壌消毒・灌注処理体系などに比べ,作業労力,経費,水量の削減が可能な防除方法と考えられた。

  • 久保 周子, 清水 健, 河名 利幸
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 27-29
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    千葉県南房総地域の特産野菜である食用ナバナでは,根こぶ病の発生が問題となっている。2012 〜 2015 年にアブラナ科作物を対象に実施された県内における分布調査により,病原性の異なる 4 つのグループ(G1 〜 G4)のうち,G2 および G4 が存在すること,県南部は両者が混在し,県北部は概ね G4 であることが明らかとなっている。G2 が県南地域に多く分布している要因を明らかにするため,根こぶ病菌 G2 および G4 のナバナ根こぶ病 の発病に影響すると思われる諸要因を検討した。その結果,G2 と G4 の病原性は異なるが,いずれも菌密度および管理温度が高いほど発病が多く,特に温度が高いほど,菌密度の影響を受けやすいことが示された。G2 と G4 で温度の影響が異なる傾向は認められず,県南部に G2 が分布する要因として温度が影響した可能性は低いことが推察された。

茶の病害
果樹の病害
  • 藤田 剛輝
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 36-37
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    近年,福島県では,‘幸水’におけるナシ黒星病の果実被害が大きな問題となっている。千葉県では,ナシ黒星病菌接種による‘幸水’果実の感受性試験結果から,満開後 55 〜 90 日頃の果実肥大後期が重要な防除時期であることを明らかにした。しかし,福島県における本病に対する果実の感受性推移の詳細は不明であったことから, 2020 年および 2021 年の 2 カ年,満開後 50 日頃から約 10 日間隔で果実への接種試験を行い,発病果率と1 果当 たり病斑数を調査した。この結果,満開後 80 日頃をピークに 50 日〜 90 日頃まで感受性が高く推移することが明らかとなった。このことから,本県においても千葉県と同様の生育ステージの時期に‘幸水’果実のナシ黒星 病への感受性が高く,重要な防除時期に当たると考えられた。

  • 井上 麻里子, 岡田 亮, 宮本 拓也, 小河原 孝司
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 38-40
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    近年,茨城県の主要ナシ産地において,炭疽病の多発生により早期落葉する園地が認められ,QoI 剤に対する 薬剤耐性菌の発生が疑われた。そこで,2020 年および 2021 年に県内のナシほ場の炭疽病罹病葉から分離した Colletotrichum 属菌 136 菌株について,菌種の同定および QoI 剤に対する感受性検定を行った。その結果,本県における種構成は,Colletotrichum fructicola が 70.6%と優占種であり,次いで C. siamense が 14.7%,C. aenigma が 7.4%であった。また,QoI 剤耐性菌の検出率は C. fructicola で 58.3%,C. aenigma で 10.0%であり,現地で発生する優占種を中心に QoI 剤耐性菌の発生が明らかとなった。

  • 冨村 健太, 二村 友彬
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 41-43
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    神奈川県におけるカンキツかいよう病菌の炭水化物利用能による系統とその分布を明らかにすることを目的に,三浦半島および県西地域のカンキツ園より罹病葉を採集した。分離した細菌のネーブルオレンジにおける病原性 を確認するため,単針付傷接種試験を実施した。さらに,明確に病原性を確認できた 49 菌株について 5 種の炭水化物(マンノース,ラクトース,マンニトール,マルトースおよびマロン酸)の利用能について調査した結果,全体で 10 系統に類別された。県内における本病原細菌の系統は主要 5 系統で優占し,全体の約 8 割を占めていた。各地域における系統の構成に,大きな違いは見られなかった。ウンシュウミカンおよび「湘南ゴールド」から分 離した菌のほとんどがマンニトールを利用できない系統であった。

花卉・花木・樹木の病害
  • 尾崎 梨花, 中島 賢, 久保田 将之, 久保田 まや, 廣岡 裕吏
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 44-47
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    2021 年 6 〜 9 月,東京都多摩地域のギンバイカ(Myrtus communis L.)施設栽培圃場において,葉に赤褐色の小斑点を生じ,その後,落葉や枝枯れを引き起こす症状が確認された。葉の斑点から分離された糸状菌をギンバイカ苗に接種したところ原病徴が再現され,接種菌が再分離された。そこで分離菌の形態観察および遺伝子解析を行ったところ,Calonectria pauciramosa であることが明らかになった。わが国において本菌によるギンバイカの病害は未報告であり,病名をギンバイカ褐斑病(Brown leaf spot)とすることを提案する。

イネ・ムギの虫害
  • 八塚 拓, 平江 雅宏, 薗部 彰, 小林 則夫
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 48-51
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    2021 年 9 月に茨城県内 3 地点でイネカメムシ幼虫を採集し,室内飼育した後,羽化後 8 日以内の成虫について虫体浸漬法による薬剤感受性検定を実施した。その結果,エチプロール水和剤,MEP 乳剤,エトフェンプロックス乳剤およびジノテフラン液剤は処理 1 時間後に補正死虫率 100%となり,殺虫効果が顕著であることが明らかになった。一方,シラフルオフェン乳剤は処理 3 時間後に苦悶虫が多く,80%以上の補正死虫率を示したものの,その後見かけ上は正常に回復する個体が認められたため 72 時間後の補正死虫率はやや低下した。

畑作物・野菜の虫害
  • 大矢 武志, 光永 貴之, 阿部 弘文, 廣橋 寿祥, 植草 秀敏
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 52-55
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    2014 年当時製造されていた,赤色防虫ネット(以下赤白ネットと省略)は,白色(透明)防虫ネットと比較してタバココナジラミに対する防除効果に大きな差がないと報告されていた。赤白ネットの縦糸は白色(透明)のポリエチレン糸(以下 PE と省略)となっており,タバココナジラミに対する十分な防除効果を示さないのは,白色の縦糸の影響と推察された。そこで,まずは縦・横糸とも黒色 PE によって製造されている「黒黒ネット」を用いてタバココナジラミに対する防除効果について検討したところ,赤白ネットおよび縦・横糸とも白色 PE で製造されている「白白ネット」による被覆と比較して高い防除効果を示した。そこで,黒黒ネットの横糸を赤色 PE に改変したネット「赤黒ネット」を新たに作成し,その防除効果について検討したところ,赤黒ネットは赤白ネットおよび白白ネットと比較してタバココナジラミに対して高い防除効果を示した。以上のことから,赤白ネットのタバココナジラミに対する防除効果が低いのは,縦糸の白色 PE が影響していることが明らかとなった。なお,0.8 mm 目合いの赤黒ネットは 0.4 mm 目合いの白白ネット,および 0.6 mm 目合いの赤白ネットの防除効果と違いが認められなかった。

  • 渡邉 香, 矢野 古都音, 原澤 典子, 池田 健太郎, 櫛川 聡
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 56-62
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    群馬県農業技術センター圃場のトマト栽培(4 月定植)において,タバコカスミカメ(以下,カスミカメ)と農薬を用いたコナジラミ類の防除効果を 2 ヵ年(2020 年,2021 年)検証した。カスミカメは 2017 年に群馬県 伊勢崎市内(群馬県農業技術センター圃場内)で捕獲して累代飼育したものを用い,前年の秋冬から春先にかけて天敵温存ハウス内のクレオメ苗で増殖させた後,本圃のトマトに放飼して定着を図った。増殖に用いたクレオメは,バンカー植物としてトマトの畝端に定植した。その後コナジラミ類を放飼して,トマト複葉におけるコナジラミ類とカスミカメの密度を約 2 週間ごとに調査した。その結果,トマトへの放飼前までにクレオメでカスミカメの増殖が確認され,トマトに放飼した後もトマトに定着して,コナジラミ類の増加が抑制された。カスミカメによるトマトへの影響は,茎葉や果実の一部に加害痕が見られたが,着果数に有意差はなかった。これらの結果から,群馬県でのトマト栽培における農薬散布を併用したカスミカメのコナジラミ類対策の有効性が示された。

  • 大林 隆司
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 63-66
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    In October 2021, an individual of unidentified Miridae was captured at a yellow sticky trap set in the field in Tachikawa City, Tokyo, and identified as Nesidiocoris tenuis. In April 2015, the distribution of this species was also confirmed on Hahajima Island of the Ogasawara (Bonin) Islands. This is the first record of this species in the mainland field area of Tokyo, although it had been recorded from Chichijima Island of the Ogasawara (Bonin) Islands.

  • 井手 雅和, 白川 純蓮, 糸山 享
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 67-70
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    We investigated the seasonal prevalence of Orius spp. and its prey (thrips) on bitter gourd and cucumber cultivated in an open field in Kawasaki City, Japan. Adults of Orius spp. were observed on both crops soon after the occurrence of thrips. Since the thrips populations were suppressed after the settlement of Orius spp., it was indicated that Orius spp. is as a natural enemy of thrips on bitter gourd as well as cucumber plants. Adults and nymphs of Orius spp. were then maintained on both crops while suppressing the thrips populations. Recently, bitter gourd have become popular to be planted as a living wall, especially in urban sites. Therefore, it was suggested that such a living wall would provide some benefits to supply the indigenous natural enemy in conservation biological control (CBC) in urban agriculture.

  • 横山 薫, 藍澤 亨
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 71-75
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    ハクサイダニに対して,ホウレンソウまたはハクサイに登録のある薬剤 30 剤の効果を 3 つの異なる検定方法で評価した。その結果,PAP 乳剤,MEP 乳剤,フィプロニル水和剤はいずれの検定方法においても高い殺虫効果が認められた。一方,エトフェンプロックス乳剤,スピノシン系 2 剤,フルフェノクスロン乳剤,クロルフェナピル水和剤およびフロメトキン水和剤は検定方法により効果に差が認められた。

    また,葉片浸漬法において採取地域の異なる 2 つの個体群に対して感受性検定を行い,個体群差異の有無を評価したところ個体群間で大きな感受性の違いは認められなかった。

  • 横山 薫, 藍澤 亨
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 76-79
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    近年,群馬県において早熟栽培の未成熟トウモロコシでナミハダニの被害が問題となっている。そこで,防除対策構築の一助とするため薬剤感受性検定を行ったところ,レピメクチン乳剤,フルキサメタミド乳剤およびアシノナピル水和剤は雌成虫ならびに卵に対する効果が高かった。この結果は,県内のナスに寄生するナミハダニで確認されている感受性と同じ傾向であった。また,トウモロコシにおけるナミハダニの寄生は国内では報告が極めて少ないことから,トウモロコシの寄主としての適性を探るため,被害報告の多いイチゴを給餌した場合と,発育日数,産卵数および定着性を比較したところ,ナミハダニはトウモロコシ上での発育は可能であるものの,適性はイチゴより劣ることが明らかになった。

  • 佐藤 信輔, 野村 美智子, 札 周平, 小河原 孝司
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 80-84
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    近年,ネギハモグリバエ別系統が茨城県のネギ生産ほ場において甚大な被害をもたらしているが,効果的な薬剤に関する知見は限られている。そこで,県内のネギほ場から 4 個体群のネギハモグリバエ別系統の成虫を採集し,産卵させ,孵化した幼虫に対する 17 種薬剤の殺虫効果を薬剤浸漬試験により検討した。その結果,チアメトキサム水溶剤およびスピネトラム水和剤,アバメクチン乳剤,チオシクラム水和剤,シアントラニリプロール水和剤が全ての個体群に対し高い殺虫効果を示した。エマメクチン安息香酸塩乳剤およびフルキサメタミド乳剤は高い殺虫効果を示す個体群が確認された一方で,その効果が劣る個体群も確認された。また現地ほ場における 5 種 薬剤の散布試験では,チアメトキサム水溶剤が最も高い防除効果を示したが,発生が多くなる,または発生開始から時間が経過し,卵,各齢期の幼虫,蛹,成虫の各発育段階が混在する時期であったので防除価は高くなかった。今後は,被害が多発する時期に防除効果の高い薬剤を定期的に散布する防除体系の確立が求められる。

  • 札 周平, 佐藤 信輔, 林 可奈子, 小河原 孝司
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 85-91
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    根深ネギのネギハモグリバエ B 系統を対象に茨城県の主要産地で普及しているチアメトキサム・シアントラニリプロール粒剤について,現地秋冬どりネギ栽培圃場で慣行防除に加え,梅雨入り時,または梅雨明け後にそれぞれ株元散布を行った。粒剤処理後の捕殺数および被害度により,防除効果を評価した結果,8 月中旬の第 1 発生ピーク時には両処理時期ともに無処理区よりも捕獲数,被害度が少なく推移したが,収穫直前の 9 月下旬の第 2 発生ピーク時では,すべての試験区で第 1 発生ピークを上回る捕殺数,被害度が確認された。また,供試したチアメトキサム・シアントラニリプロール粒剤について,ネギハモグリバエの防除により寄与している成分を明らかにするため,茨城県農業総合センター園芸研究所内圃場でチアメトキサム粒剤,シアントラニリプロール粒剤と比較したところ,チアメトキサム粒剤はチアメトキサム・シアントラニリプロール粒剤と同等の効果があることが認められた。さらに,チアメトキサム・シアントラニリプロール粒剤よりも安価で,同等以上の効果が期待できる粒剤を検討するために,ネギのネギハモグリバエまたはハモグリバエ類に登録のある各種粒剤(クロチアニジン粒剤,ニテンピラム粒剤,ジノテフラン粒剤,シアントラニリプロール粒剤,チアメトキサム・シアントラニリプロール粒剤)について比較試験を行った。その結果,ジノテフラン粒剤で最も高い効果が確認され,低コストかつ使用成分回数の削減につながると考えられた。

研究手法
  • 春山 直人, 栗原 隆
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 69 巻 p. 92-97
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/19
    ジャーナル フリー

    栃木県では,2017 年にクビアカツヤカミキリによる被害が初めて確認され,2022 年 4 月時点では県南部の 6 市町に分布域が拡大している。本種は幼虫がモモ,スモモ,ウメやサクラ等の樹皮下を食害し,やがて樹木を衰弱・枯死に至らしめる。本種は特定外来生物に指定され,分布拡大防止のために被害の早期発見と早期防除の取組みが実施されている。本種の被害が疑われる樹木が発見された場合,主に排糞孔から排出されるフラスやその内容物の形状によって簡易的な同定が行われる。一方で,若〜中齢幼虫の期間は排出されるフラス量が少なく,構成物も小さいため特徴が確認しにくい。また,カミキリムシの幼虫は形態的特徴が類似しており,特に若〜中齢期の識別に資する知見は乏しい。クビアカツヤカミキリが加害するモモやサクラでは,しばしば在来種のゴマダラカミキリやウスバカミキリの寄生もみられるため,前記の理由から確実な同定が難しいケースも多い。そこで,カミキリムシの同定診断の知識・経験を必要としない,他種との識別が困難な幼虫等の診断に有効なツールとして,クビアカツヤカミキリを識別可能な cleaved amplified polymorphic sequence (CAPS) マーカーを開発した。本県内および国内他地域のクビアカツヤカミキリ個体群の塩基配列を比較検討した結果,本マーカーは少なくとも北関東地域のクビアカツヤカミキリ個体群で活用でき,他地域の個体群でも有用な可能性があると考えられた。また,現場からの診断依頼では,サンプルがクビアカツヤカミキリ以外のカミキリムシであった場合,詳細な種までの診断結果が求められることも多い。CAPS マーカーは様々な生物種で種や系統の識別に用いられており,本マーカーについても他のカミキリムシ種の診断に有効な可能性があると考えられた。そこで,一般的にみられるカミキリムシのうち,クビアカツヤカミキリの疑いをもって診断依頼がなされる可能性がある種として,クビアカツヤカミキリが寄生するモモやサクラから得られる種,幅広い広葉樹を利用する種,被害様相がクビアカツヤカミキリに類似しており混同されやすい種から,主要な 23 種を選定し,開発されたマーカーによるバンドパターンを比較した。その結果,PCR 増幅産物が認められた 17 種全てにおいて,種特異的なバンドパターンが認められたことから,本マーカーはクビアカツヤカミキリ以外のカミキリムシでも種の診断に一定程度有用であることが示唆された。

第 68 回研究発表会講演要旨
その他
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