杏林医学会雑誌
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マラリア低流行地に適した疫学調査の新しい試み
柳澤 紘
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1990 年 21 巻 1 号 p. 31-41

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抄録

1988年8月,マラリア低流行地であるアマゾン日系移住地Tome-Aguにおいて,日系人移住者(日系人)148名,非日系現地人労務者(現地人)162名を対象として戸別訪問による問診と血液検査を実施し,マラリア流行の動向を調査した。マラリア血清診断には間接螢光抗体法(indirect fluorescent antibody test; IFAT)を用い,日系人と現地人を対比して現地のマラリアの侵淫に関する疫学的特性,特に宿主の低流行地における定住条件の感染に及ぼす影響を検討した。現地人の熱帯熱マラリア抗体保有状況と年齢別に見たマラリア抗体の分布から流行を示唆するピークが認められたが,日系人の場合は認められなかった。これら血清中の抗体保有状況から日系人の間に熱帯熱マラリアの流行はないが,現地人の間では熱帯熱マラリアの流行があることが示唆された。現地人ではTome-Agu滞在年数が長いものほど血清診断陽性率が減少した。マラリア血清診断結果と問診票によるマラリア既住歴との一致率は,日系人77.7%,現地人56.8%であった。マラリア低流行地帯におけるIFATと問診票による既往歴調査の併用は,原虫の検出,脾腫の計測による従来のWHO方式では得られない詳細な疫学的情報を得ることが可能であり,低流行地におけるマラリア流行度の測定に有効な方法と考えられる。

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© 1990 杏林医学会
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