杏林医学会雑誌
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プローブ反応時間からみた移動能率に関する研究
黒澤 和生
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1994 年 25 巻 4 号 p. 527-536

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抄録

健常成人を対象に,トレッドミル歩行において,歩行因子である歩行速度と歩行率を変化させる3つの実験を行った。研究の目的は,注意需要の指標であるプローブ反応時間の変化と歩行能率の指標であるPhysiological Cost Index (PCI)の関係を検討することである。実験I.健常成人13名(全例男性:平均年齢28.3±7.38歳)を対象に,床上での快適歩行速度を求め,トレッドミルの速度変化(2,3,4,5,6km/hr.)におけるプローブ反応時間の最小値と比較した結果,快適歩行速度と注意需要を最小にするトレッドミルの歩行速度は近似した値であった。実験II.健常成人7名(全例男性:平均年齢20.0±1.0歳)を対象に,トレッドミルの速度変化(2,3,4,5,6km/hr.)におけるPhysiological Cost Index(PCI)とプローブ反応時間を求め比較した結果, PCI値とプローブ反応時間の値は近似した値を示し,至適速度とプローブ反応時間はほぼ一致した。実験III.健常成人7名(全例男性:平均年齢20.1±1.07歳)を対象に,トレッドミルの速度を至適速度(5km/hr.)に設定し,歩行率を毎分80,100,120,140,160歩と変化させ,そのときのPCI値とプローブ反応時間を測定した結果,PCI値を最小にする歩行率と注意需要を最小にする歩行率は一致した。以上の結果より,それぞれ異なった歩行速度において,エネルギー消費を最小にする歩行速度と歩行率の組み合わせは,注意需要も最小となることと一致する傾向を示した。この結果,プローブ反応時間を用いて移動能率の変化を評価することが可能となることが明らかとなった。医学的リハビリテーションの領域において,プローブ反応時間は歩行機能に障害を受けた身体障害者の歩行中の注意需要の評価手段として,また移動能率の評価の指標としても有用性が高いと示唆された。

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© 1994 杏林医学会
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