抄録
症例は71歳,男性。虫垂切除術,冠動脈バイパス術の既往。主訴は腹痛。臍周囲圧痛あるが,腹膜刺激症状なし。血液生化学検査も異常なし。腹部CTで,肝両葉に肝表面に達する樹枝状ガス像と,上腸間膜動脈周囲に大動脈解離を認めた。以上より,大動脈解離が関与する門脈内ガス血症と診断し,経過観察した。その後,少量の下血と炎症反応の上昇を認め,消化管虚血も否定出来ず手術となった。手術所見は,虫垂炎術後の高度癒着と回腸末端に発赤,浮腫状変化を認めたが,壊死性変化を認めず,癒着剥離術のみを施行。門脈ガス血症の原因は単純性腸閉塞と考えた。経過良好で,第12病日に退院。門脈内ガス血症は,消化管壊死を伴うことが多いが,自験例のように壊死を伴わない腸閉塞が原因のこともある。しかし門脈ガス血症の高い致死率を考え,画像上で門脈内ガスを見れば,消化管壊死やそれに進展する消化管病態を考え,早期手術の考慮が重要である。