2023 年 2023 巻 53 号 p. 71-82
日本の終末期医療政策をリバタリアン的合意とコミュニタリアン的合意の視点から歴史的に考察した。まず日本安楽死協会が治療停止に関する法案を作成したが、ルール化に至らなかった。この法案は治療停止に関して自己決定権を重視しており、リバタリアン的合意を目指したものと言える。さらに日本医師会が複数の報告を発表し、リビング・ウィルやアドバンスディレクティブに言及するなどリバタリアン的考え方に基づく見解を表明した。2007年には厚生労働省がガイドラインを策定し、患者・家族の社会的な側面も含めた医療・ケアが必要とされていることからコミュニタリアン的合意に至ったものと言える。その後、日本救急医学会や日本医師会もガイドラインを発表しているが、リビング・ウィルやアドバンスディレクティブに言及するなどリバタリアン的な発想も強い。とくに日本医師会は医師の法的責任の免除を強調している。そのため、医療関係者がリバタリアン的合意に近づくことの根底には責任をめぐる争いがあると言える。