九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
会議情報

セクション
脳卒中片麻痺患者における運動錯覚の評価の妥当性
*屋富祖 司*三笘 雅史*安室 真紀*末吉 恒一郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 103

詳細
抄録

【目的】

脳卒中後の運動機能回復に影響を与える要因として,1.運動予測型の脳活動,2. 運動発現における皮質脊髄路経由の発火,3. 麻痺側への体性感覚フィードバックが重要(Cohen et .2010)との報告がある.皮質脊髄路の興奮や体性感覚入力に関しては,脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺者)の治療プログラム立案や評価等において意識されることが多いと思われる.運動予測型の脳活動を用いた治療介入として,運動イメージや運動観察,運動錯覚などの報告がみられるが,評価としての報告は多くはない.そこで本研究では,実際の運動発現には至らないが運動領域ネットワークを活性化する運動錯覚を用い,他の指標との関連性を分析し,評価指標としての妥当性を検討した.

【方法】

対象者は,回復期病棟に入院中の片麻痺者11例(男性7例,女性4例,平均年齢は67.1±11歳)で,高次脳機能障害は重度でなく,研究課題が理解でき,歩行練習が監視で可能な者とした.

運動錯覚の測定肢位は,安楽な椅子座位とし,台の上に下肢を乗せた.先行研究をもとに,運動錯覚について口頭説明を行った後に,閉眼で他動にて足関節背屈運動を行い,筋感覚イメージを想起させ,ハンディーマッサージャー(スライブ株式会社製,THRIVE MD-001:周波数91.7Hz)を用い,麻痺側アキレス腱に振動刺激を行った.プロトコルは,安静15秒-振動刺激30秒を3回連続で実施し,運動錯覚を経験した際の運動錯覚強度をVerbal Rating Scale(以下,VRS)を用いて6段階で評価した.また, 2日間に分けて実施し,VRSの平均値を求めた.加えて,背景因子として性別・年齢・発症からの期間,身体機能として握力・下肢Br.stage・感覚鈍麻の有無・10m歩行速度,ADL評価としてmotor FIMの調査・測定を行った.

統計解析は,VRS との関連性の検証について Spearman順位相関係数を用いて検証し,さらに従属変数をVRS,独立変数を背景因子(性別・年齢)および身体機能(握力・下肢Br.stage・感覚鈍麻の有無・BBS・10m歩行速度),ADL評価のmotor FIMとした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.解析にはそれぞれ SPSS Statistics25(IBM社製)を使用し,有意水準は全て5%未満とした.

【結果】

Spearman順位相関係数の結果,VRSと優位な相関を認めたのは,10m歩行速度(rs=-0.810,p<0.01),BBS(rs=0.682,p<0.05),motor FIM(rs=0.609,p<0.05)であった.重回帰分析の結果,VRSに影響を及ぼす因子は,10m歩行速度(β=-0.749,p<0.01)が抽出された.

【考察】

運動錯覚を用いた介入により歩行速度は優位に改善する(Sutbeyaz et .2007,酒井ら2018)との報告があり,本研究においてもVRSは,歩行との相関が高く,重回帰分析でも歩行が影響を及ぼす因子として抽出された.歩行速度が速いほどVRSが高くなるという関係性が認められ,VRSは歩行能力を反映する評価指標として有用な可能性が示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には本研究の趣旨を説明し,参加の承認を得るとともに,当院の倫理委員会の承認を得た研究である.また、本研究において,開示すべき利益相反関係にあたる企業はない.

著者関連情報
© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
前の記事 次の記事
feedback
Top