主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 11
【はじめに】当院ではクリニカルクラークシップ(以下CCS)による臨床実習教育の実践を目的に,臨床実習指導者(以下CE)を対象とした勉強会を実施している.昨年度の勉強会ではCCSの基盤となる学習理論について説明し,学生を多くの診療場面に参加させつつ段階的な技術修得を促すことを推奨した.その結果,実習後アンケートにおいて,技術指導の円滑化や学生とのコミュニケーションの促進といった効果が示唆されたが,その一方で,CCSの具体的な実践方法について自信がない様子も伺えた.そこで今年度は,近年の学生気質をふまえたチェックリストの活用法について,より具体的な実践例を通して説明を行った.今回,昨年度と今年度の実習終了後のCEの感想を計量テキスト分析にて分析したため報告する.
【方法】対象は昨年度のCE38名(経験年数5.7±3.0年)と今年度のCE43名(経験年数6.0±3.6年)とし,「CCSを実施してよかったこと(問1)」と「CCSを通して難しく感じたこと(問2)」について無記名式の自由記述アンケートを実施した.計量テキスト分析にはKH Coder を用い,回答文をテキストデータに変換後,形態素解析にて複合語を検出し,分割されることにより意味を損ねる複合語は強制抽出語として指定した.また,意味的類似性が高い語は同一の語として指定した.その後,すべての語間の共起関係を示すJaccard 係数を算出し,共起ネットワークを作図した.作図条件は,最小出現数3回,Jaccard係数0.3以上とし,作図されたネットワークの内容を回答文の文脈に沿って分析した.
【結果】問1の回答文の総数は昨年度52文・今年度56文であり,共起ネットワーク分析では昨年度7個・今年度6個のサブグループが認められた.さらに,文脈分析の結果,昨年度・今年度ともに技術指導の円滑化や業務外の指導時間の短縮に関する意見が認められ,加えて今年度は学生の能力に応じた指導やCE自身の診療推論の改善に関する意見が認められた.問2の回答文総数は昨年度57文・今年度48文であり,共起ネットワーク分析では昨年度8個・今年度6個のサブグループが認められた.さらに,文脈分析の結果,昨年度はチェックリストの項目数や学生の理解度を把握することの困難さなど漠然とした意見が認められたが,今年度はチェックリストの段階的評価やCE自身の思考の伝え方など,より具体的な指導場面における問題意識の深化が認められた.
【考察】本研究の結果,CCSの学習理論に加えて具体的な実践例を学ぶことによって,CEは昨年度よりもチェックリストを有効に活用できるようになったほか,自身の臨床推論の内省にも寄与した可能性が伺えた.また,技術指導において模倣から実施への移行する際の判断基準など,より具体的な指導場面における詳細な疑問や困難感が認められたことから,勉強会にて学んだ具体的な実践方法と実際の経験の差異から新たな気づきが生じたものと思われる.これらのことから,CCSの実践のためには理論に加えて具体的な方法についても教育することが効果的である可能性が考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認後(承認番号17-184),対象者の同意を得て実施した.また,開示すべき利益相反はない.