九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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下肢閉塞性動脈硬化症における理学療法禁忌の判定基準に関する考察
ー足部皮膚温度差とAnkle Pressure Indexの関係ー
*坂本 親宣
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p. 23

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抄録

【目的】下肢閉塞性動脈硬化症において動脈閉塞が軽度の場合は血流の改善を図るために虚血肢に対しても積極的な理学療法が展開されることがあるが、逆に重度の場合は虚血の進行を防止するために虚血肢に対する積極的な理学療法は禁忌とされている。その判定基準は諸家により報告されており、なかでもWilsonらは上肢血圧に対する患側下肢における血圧の比(Ankle Pressure Index:以下API)が0.6以上の症例では運動療法により歩行可能距離の延長が期待できるが、0.5以下では血行再建術の適応を考慮すべきと述べている。よって下肢閉塞性動脈硬化症の症例に対して運動療法や歩行練習を行うにあたってはリスク管理の観点から動脈閉塞の程度を考慮することが非常に重要となる。そこで、今回我々はサーモグラフィを用いて簡便に計測できる皮膚温度をもとに理学療法の適応、禁忌を判定基準について検討を行ったので報告する。

【対象】K病院の心臓血管外科を受診した一側性の下肢閉塞性動脈硬化症の症例40名であり、男性30名、女性10名、平均年齢は68.5±8.5歳であった。患側は右側22名、左側18名であった。閉塞部位は総腸骨動脈が15名、外腸骨動脈が6名、大腿動脈が18名、膝窩動脈が1名であった。一側で複合的に動脈閉塞を呈した症例はいなかった。

【方法】足背部、足底部の皮膚温度測定はトレッドミル上歩行(時速2.7km、最長時間3分間、最長距離135m)後にサーモグラフィを用いて行った。測定は両側下肢ともに行い、健肢と患肢の皮膚温度の差を皮膚温度差とした。測定室の室温は23℃とし、空気の流れを遮断した。患側下肢血圧の測定は心臓血管外科の医師が足背動脈にて測定し、APIを算出した。皮膚温度差とAPIの相関係数はStat-Flexを用いて検討した。

【結果】皮膚温度差(Y)とAPI(X)とすると足背部でY=-2.53X+2.41、足底部でY=-2.22X+2.27の式が得られた。両者の相関係数は足背部で-0.81(p < 0.002)、足底部で-0.74(p < 0.002)であった。患肢API0.5は足背部の皮膚温度差1.1~1.3℃,足底部の皮膚温度差1.2~1.3℃に相当した。

【考察】今回の結果よりWilsonらが提唱する運動療法や歩行練習といった理学療法の禁忌となるのは足背部の皮膚温度差1.1℃以上,足底部の皮膚温度差1.2℃以上の症例であることが示唆された。しかしながら下肢閉塞性動脈硬化症の症例のなかには両側性を呈している者も多く、そのような症例にはこの方法は適応にならない。両側性の下肢閉塞性動脈硬化症に対しては今後、下肢近位部と足部との皮膚温度差の検討や絶対温度の設定などが必要になると考えられた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に則り、実施に際して全対象者対して方法やリスク面について十分な説明を行い、同意を得た。また、知り得た情報は漏洩がないよう管理に配慮した。なお本研究に対して利益相反に関する開示事項はない。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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