九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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ICU専任理学療法士の介入により合併症予防を図り歩行開始が可能となった一症例
*徳田 啓太
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p. 24

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抄録

【目的】

集中治療領域においてABCDEバンドルを用いたケアの実践が推奨されており、理学療法士は早期離床に向けた関わりが求められる。本症例は気道クリアランス悪化にて離床・人工呼吸器離脱が困難であり理学療法士を中心とした体位排痰法を実施。私が知る限り人工呼吸器挿管中の体位排痰法は酸素化改善や無気肺予防に良好との介入報告は散見しているが有用性を示す科学的根拠に乏しい。今回、人工呼吸器挿管中より体動促進及び腹臥位療法にて合併症を予防し歩行まで可能となった症例に関して報告する。

【方法】

60歳代男性、病前全自立。細菌性肺炎による急性呼吸不全及び代謝性アシドーシスを認めICU入室。SOFA score:11点。Nasal high flow開始もP/F:85.7と低酸素血症にて気管挿管施行となった。第2病日目、血液濾過透析(以下HDF)開始。第3病日目より理学療法開始。第5病日目、循環動態安定に伴い体位排痰法として完全側臥位・前傾側臥位開始。第10病日目、人工呼吸器抜管予定も気道クリアランス不良により抜管延期となり、第12病日目より腹臥位療法開始。毎朝他職種とケアやHDFの時間調整を行い、HDF施行日は終了後より2時間、HDF非施行日は午前・午後2時間ずつ実施。理学療法以外の時間は譫妄予防として更衣・清拭における体動促進や頻回な声掛け・体位調整を看護師と実施。また、夜勤帯でも可能な体位排痰として完全側臥位を依頼した。第16病日目に人工呼吸器抜管し同日車椅子乗車・起立開始となったが自己喀痰能に乏しく、再挿管リスクが高かったため腹臥位療法も並行して行った。第19病日目歩行開始し、自己喀痰のみで気道クリアランス悪化が無くなったため第20病日目腹臥位療法中止。第24病日目ICU退室。SOFA score:6点

【結果】

腹臥位療法開始後よりP/F値の悪化無く人工呼吸器抜管後も歩行まで可能。ICU退室時MRC score:48点。ICU入室中CAM ICU陰性、HDS-R:27点で譫妄や認知機能悪化も見られなかった。第33病日目、歩行器歩行見守りレベルにてリハビリ目的の転院となった。

【考察】

長期人工呼吸器管理はICU獲得性筋力低下や譫妄等のADL・QOL低下をきたす原因となっており、早期気道クリアランス改善が必要であった。体位排痰法は腹臥位療法が有意に酸素化改善を認める点や人工呼吸器抜管後の再挿管要因として自己喀痰能の低下が大きく関与していると報告あり。人工呼吸器挿管中より理学療法介入時間以外でも更衣・清拭での体動促進や腹臥位療法を行うことで呼吸器合併症予防・譫妄予防を図り歩行開始に寄与したものと推察する。当院ではICU専任理学療法士を配置しており、理学療法介入以外の時間でも他職種と協力し体位管理を行う事が可能であった。人工呼吸器挿管中の合併症を予防し離床を行うには理学療法以外の時間でも継続した体位管理や体動促進が必要であり理学療法士はそのコーディネート役としての役割が求められる。

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例の紹介・発表を行うにあたって患者本人へ十分な説明を行い承諾を得た。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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