九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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変形性股関節症患者の歩行時痛と時間幅を持った運動学的変数との関連性の検討
*井原 拓哉*辛嶋 良介*阿南 雅也*高橋 真*川嶌 眞之
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p. 26

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抄録

【目的】

歩行時痛は変形性股関節症(Hip Osteoarthritis:以下,HOA)患者の主訴の一つであり,歩行時痛の軽減は理学療法の介入目標となる事も多い.歩行時の身体運動と疼痛の関連性に関する報告は散見するが,一貫した見解は得られていない.先行研究では外部股関節伸展モーメントのピーク値と疼痛との関連性に関して言及しているが,本疾患が退行変性疾患であることを鑑みると,時間幅を持った変数との関連性も検討する必要があると考えられる.そこで本研究は,臨床で簡便に評価が可能な慣性センサを用いて,加速度の積分値および歩行中の運動の規則性を示すApproximate Entropy(以下,ApEn;値が小さいほどデータの規則性が高いことを示す)と,疼痛との関連性を検討することを目的に実施した.

【方法】

被験者は,HOA患者11人(Kellgren & Lawrence分類;GradeIII:6人,IV:5人)であった.疼痛はVisual Analog Scaleにて調査した.課題動作には30mの平地歩行を採用した.9軸慣性センサTSND151(ATR社製)3台を第1腰椎棘突起背側(以下,腰椎)と両上後腸骨棘中央背側(以下,骨盤),大腿中央外側(以下,大腿)に装着し,サンプリング周波数100 [Hz]で,各部位の直交する3軸方向の加速度の時系列データを取得した.解析にはMATLAB R2018b(MathWorks社製)を使用し,各部位毎に連続した15歩行周期中の各軸方向の成分およびそれらの合成成分の時系列データを算出し,その絶対値の積分値とApEnを算出した.統計解析にはSPSS 17.0J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,データの正規性に従って疼痛との相関係数を検討した.有意水準は5%に設定した.

【結果】

疼痛との有意な相関関係は,腰椎の鉛直成分の積分値(r = -0.65),骨盤の鉛直成分および合成成分のApEn(鉛直成分:r = 0.77,合成成分:r = 0.72)に認めた.腰椎の鉛直成分および合成成分のApEnは,有意ではないが疼痛と相関する傾向を認めた(鉛直成分:r = 0.54, p = 0.09,合成成分:r = 0.60, p = 0.05).大腿の積分値およびApEnには疼痛と有意な相関関係を認めなかった.

【考察】

本研究はStageが進行したHOA患者が多く,関節可動域制限も進行していた.そのようなHOA患者では疼痛軽減のために剛性の高い股関節以外の関節で荷重に伴う衝撃を分散する必要があると考えられる.本研究の結果から,特に腰椎・骨盤運動(特に鉛直成分)が規則的なほど,腰椎の鉛直方向の運動量が大きいほど疼痛が弱いことが示された. これは荷重に伴う衝撃を体幹で分散させ,疼痛を軽減できている結果であると考えられた.特に腰椎より近位の体節が規則性をもち制御された状態で股関節への負荷を代償できることの重要性を示唆していると考えられた.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち所属施設の倫理委員会の承認を得て行った(承認日:平成30年1月4日).また,対象者に対して研究の意義,目的について十分に説明し同意を得た後に実施した.本研究に関連して,発表者らに開示すべき利益相反はない.

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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