九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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超高齢大腿骨近位部骨折症例における自宅退院に関する比較
*長谷川 優
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p. 27

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抄録

【目的】

大腿骨近位部骨折(Hip Fractures:以下,HF)症例は増加傾向にあり,術後成績,歩行能力,転帰先などをアウトカムとした研究が多数報告されている.しかし,年齢基準は様々で90歳以上のHF症例の報告は少ない.そこで本研究は,自宅退院した高齢HF術後症例における年齢層別の特徴を調査することを目的とした.

【方法】

対象は2014年4月から2018年2月の間に当院の回復期リハビリテーション病棟を退棟した75歳以上のHF術後症例349名(男性63名,女性286名,平均年齢85.8±5.95歳,自宅群207名,非自宅群142名)とし,その内75歳以上90歳未満を高齢期,90歳以上を超高齢期に分類した.分類には日本老年医学会が提案した高齢者の再定義を参考にした.

調査項目は年齢,性別,HF既往の有無,骨折の種類,急性増悪の有無,同居家族の有無,手術から入棟までの日数,在棟日数,機能的自立度評価(以下,FIM),総単位数,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R),チャールソン併存疾患指数(以下,CCI)とした.FIMは入棟時と退棟時の運動項目(以下,mFIM)と認知項目(以下,cFIM),利得,FIM effectivenessを調査した.統計処理はJMP13.2.1を使用し,それぞれの転帰先における2群間を比較した.

【結果】

高齢期の比較では年齢,在棟日数(p < 0.05),急性増悪の有無,同居家族の有無,入棟時及び退棟時のmFIMとcFIM,mFIM利得,mFIM effectiveness,総単位数,HDS-R,CCI(p < 0.01)に有意差を認めた.超高齢期の比較では急性増悪の有無,同居家族の有無,退棟時mFIM,mFIM利得,mFIM effectiveness(p < 0.01)に有意差を認めた.自宅退院した高齢期・超高齢期の2群間比較では性別,近位部骨折の既往(p < 0.05),入棟時及び退棟時のmFIMとcFIM,mFIM effectiveness,HDS-R(p < 0.01)に有意差を認めた.

【考察】

今回,自宅群と非自宅群の2群について比較した結果,高齢期では13項目,超高齢期では5項目に有意差を認め,超高齢期の5項目はすべて高齢期と一致した.

急性増悪の有無と同居家族の有無では,年齢に関係なく有意差を認め,高齢者が自宅へ退院する上で重要な因子であると推測される.FIMでは高齢期の自宅群にてFIM関連項目に有意差を認めたが,超高齢期では入棟時FIM,退棟時cFIM,cFIM利得に有意差を認めなかったことから,高齢期ではcFIMが高いと自宅退院に有利であることが示唆された.また,超高齢期の2群間比較では認知機能に有意差を認めず,さらに自宅群の高齢期と超高齢期間の比較ではHDS-Rに有意差を認め,超高齢期の認知機能が低いことが示された.この結果から,90歳以上のHF症例では,認知機能の低下があっても急性増悪がなく,同居家族が存在し,mFIMの改善が得られることで自宅に退院できる可能性が示唆された.

【まとめ】

90歳以上のHF症例では,認知機能に拘わらずADLへの取り組みは,自宅に退院する上で重要であることが示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,ヘルシンキ宣言ならびに臨床研修に関する倫理指針に則って行い,医療法人しょうわ会倫理委員会の承認(承認番号S2019-02)を受け実施した.また,得られたデータは匿名化し,個人情報管理に留意した.

本演題発表に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業等はない.

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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