主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 28
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折では術後早期の離床や運動療法の有効性が認められているが,在宅復帰を見据えた場合には,患者の環境因子等を踏まえた上での動作能力獲得が重要とされている.変形性関節症に代表される退行変性疾患では患者立脚型の疾患特異的評価尺度を用いて患者自身のQOL等を考慮した治療成績が重要視され,股関節疾患においては日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(以下,JHEQ)が用いられている.しかし,大腿骨近位部骨折においては術後在宅復帰に向けたADLの評価としてFIM等の介助量を指標とした評価が主体で患者立脚型評価を用いた報告はまだ少ない.一方で,大腿骨近位部骨折術後に股関節可動域の制限をきたす例が存在するものの,股関節可動域制限が動作に及ぼす影響を検討した報告はほとんどない.
そこで本研究では,JHEQにおける動作因子の合計点を患者が日常生活動作で感じる苦手意識,「動作困難感」と定義した上で,退院時点の動作困難感と股関節可動域制限との関連性を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,H28年3月からH30年4月までの期間で大腿骨近位部骨折により当院で人工骨頭置換術又は観血的手術(術後1週以内に全荷重可能な手術)を施行した188名の内,退院時評価を実施でき包含基準に該当した30名(平均年齢82.4±7.7歳,男性6名,女性24名,人工骨頭置換17名,γネイル13名).包含基準は,(1)HDS-Rが20点以上,(2)受傷前歩行能力が独歩又は杖にて自立していた者,(3)脳血管疾患などに伴う運動麻痺の既往がない者とした.
方法の概要は,退院時JHEQの調査と両側の股関節可動域の測定を実施後,両者の関連性を検討した.JHEQは,疼痛,動作,メンタルの3つの因子で構成されている評価票であるが,今回は動作因子の合計点を動作困難感の指標とした(以下,JHEQ動作因子).また股関節可動域は,手術側と非手術側の屈曲,伸展,外転,内転を測定した.統計学的処理は,各データの正規性の確認した上でJHEQ動作因子と股関節可動域との関連性を,Spearmanの順位相関係数又はPearsonの積率相関係数を用いて検討した. 解析にはR2.8.1(CRAN,freeware)を用いて,危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】
JHEQ動作因子は手術側股関節屈曲可動域(P < 0.01,r=0.47)と有意な正の相関を認めたが,その他の股関節可動域とは有意な相関は認められなかった.また,JHEQ動作因子の各項目の平均点は下位から和式トイレ使用1.2点,しゃがみ込み1.6点,床からの立ち上がり1.7点, 爪切り2.2点,浴槽の出入り2.5点, 階段昇降2.5点,靴下装着2.7点であった.
【結論】
JHEQ動作因子は股関節の可動性や機能が求められる動作で構成されており,今回の調査でも和式トイレやしゃがみ込み等の股関節の大きな可動性が要求される動作で困難感を示す傾向にあった.本研究結果は,大腿骨近位部骨折患者が感じる動作困難感に手術側股関節屈曲可動域が影響を及ぼすことを示唆するものと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会にて承認を得て実施した(承認番号2018B-10).