主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2019
回次: 1
開催地: 鹿児島
開催日: 2019/10/12 - 2019/10/13
p. 33
【はじめに】高齢者は加齢に伴い運動機能が低下し、生活活動範囲が狭小化する。当施設通所リハビリテーション(以下通所リハ)利用者において、ADL遂行は可能だが、IADLではとっさの反応が出にくくなり転倒したと聞くことが多い。ADLやIADL動作は単一動作ではなく複合動作であることが多い。複合動作を評価する指標としてはTimed Up and Go Test(以下TUG)が使用されることが多い。複合動作能力向上のためには運動機能や認知機能等複数の能力に対してアプローチすることが必要である。そこで、複合動作能力向上と瞬時に反応できる能力である敏捷性との関係性を検討し、考察を加えて報告する。【対象者】H30年10月に当施設通所リハを利用している要支援利用者女性26名、男性5名平均年齢87歳±5.41歳(71歳~98歳)であった。【方法】評価として片脚立位時間(左・右)・Timed Up and Go Test(以下TUG)・5m最大歩行時間(以下5m歩行)を、また認知機能評価として、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を実施した。下肢の敏捷性評価として足踏みテスト(以下足踏み)と下肢開閉テスト(以下開閉)を実施した。足踏みは椅子座位で両足を簡易測定シート(30cm×30cm)の中央にのせ、10秒間でできるだけ早く足踏みを行い、回数を記録した。開閉は、椅子座位で両足を簡易測定シート(30cm×30cm)の中央にのせ、両下肢同時に外転し、シートの外の床をタッチして戻す。20秒間行い回数を記録した。統計処理は、従属変数「TUG」・独立変数を上記片脚立位時間・5m歩行・HDS-R・足踏み・開閉・年齢として重回帰分析を行った。重回帰分析を行うにあたってはステップワイズ法を用い、統計ソフトはSPSSを用い行った。本研究は、倫理的な配慮として対象者には研究の趣旨および説明を十分に行い、紙面で同意を得た上で実施した。結果】二値のロジィスティック回帰分析の結果、5m歩行、年齢においてTUGとの相関が強いことが分かった。TUGと5m歩行は歩行という点で相関が強いのは納得がいくため、上記から5m歩行を除き、再度重回帰分析を行うと、開閉が抽出され、決定係数:0.50・P値:0.004であった。【考察】生活活動範囲を広げるためには筋力やバランス能力と同じようにすばやい重心制御能力の維持が必要であり、複合動作能力の向上が必要である。歩行練習や筋力向上運動を実施することで筋力や筋持久力、柔軟性、バランス能力と敏捷性が向上する。しかし、トレーニングの3原理に特異性の原理から考えると、歩行練習や筋力向上運動では確実に敏捷性の向上にアプローチできているのか疑問が残る。下肢筋力やバランス能力は歩行という観点では重要な因子であるものの,在宅生活継続のための日常生活動作では動作の切り換えが要求され、下肢の敏捷性が重要な因子となる。橋詰らは敏捷性の低下は運動系の加齢変化の一般的特徴として運動神経線維の伝導速度の低下や筋の収縮スピードの低下など身体の比較的末梢の加齢変化が強く関与していると述べている。高齢者の在宅生活継続のためには、筋量よりも最大速度での筋収縮を促すような運動を個別に実施していくことが重要である。【終わりに】加齢により、筋線維の神経支配が不活性となった筋線維が委縮し、筋量が減少すると考えられている。筋力だけを向上することを行っても神経伝達スピードは向上しない。高齢者が選択された地域で日常生活を継続するには筋力を維持しつつ、敏捷性を中心としたすばやい重心移動能力を維持する介入が必要である。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、倫理的な配慮として対象者には研究の趣旨および説明を十分に行い、紙面で同意を得た上で実施した。また、老人保健施設ウェルハウスしらさぎ倫理委員会の承認(№1)を得ている(2019.2)