九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2019
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距骨脱臼骨折後、末梢循環障害の改善に難渋した症例
*橋爪 渉
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p. 70

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抄録

【はじめに】

距骨脱臼骨折は全骨折に対して1%以下と言われ、非常に稀な骨折である。一般的な経過として術後に長期間の荷重制限を要すが、予後良好であったという報告が多い。今回、距骨脱臼骨折にて観血的整復固定術施行後、末梢循環障害により歩行獲得に難渋した症例を担当させて頂いたためここに報告する。

【症例】

20代男性、身長162cm、体重50kg、BMI19。職業は家具家電の搬送・取り付け。自転車走行中、乗用車と衝突し受傷。距骨脱臼骨折に加え末梢循環障害による無腐性骨壊死となる可能性が高かったため下腿切断も考えられた。しかし本人の意思、社会的背景を考慮し緊急にて観血的整復固定術施行。

【経過】

術後8週間右下肢免荷にて理学療法を開始。2週目:可動域運動開始。右足関節背屈-15°底屈30°右足趾筋力MMT2右足底表在感覚1/10。4週目:PTB装具完成したが、距骨・内果部に疼痛、足底と第3~5趾の痺れにて装着困難。6週目:右足関節背屈-5°底屈40°まで改善し、PTB装具装着可能となったが痺れが残存し10m以上の歩行困難。8週目:10kg荷重開始。疼痛・痺れが増悪するため50m以上の歩行困難。10週目:20kg荷重開始。片松葉杖とPTB装具にて実用的な歩行可能。12週目:30kg荷重開始。右足関節背屈0°底屈40°右足趾筋力MMT4右足底表在感覚7/10、屋外歩行可能。

【考察】

本症例は後脛骨動脈断裂を認めたが、ドップラー検査により足背動脈の血流が確認され、下腿切断は回避出来た。しかし、CTにて距骨完全骨折・脱臼を認めており、手術による関節アライメントの正常化に限界があった。また、後脛骨動脈断裂により筋血流量減少、右下腿の筋委縮・筋硬結を認めた。これらが、足関節包内の運動制限と筋の伸張性低下を招き、足関節正中位を強いられるPTB装具装着で疼痛を生じたと考えられる。また、6週目以降、間欠性跛行によって10m以上の歩行は困難であった。これは、運動時に伴う筋血流量の需要増加に対し側副血行路による供給不十分となり、需要と供給の不均衡によって痺れが生じたと考えられる。これに対してガイドラインに準じ、間欠性跛行には、末梢循環促進を目的とした疼痛の無い範囲での歩行を実施した。併せて患部外の筋力増強による筋血流量増大を図った。また、神経断裂による感覚脱失が改善傾向を示しており、主治医と協議をした上で渦流浴を追加実施、過剰な交感神経の働きを予防する目的で禁煙を指導した。

今回、末梢循環の改善を中心としたアプローチ、適切な時期での物理療法や生活指導により、PTB装具着用での屋外歩行可能に至った。これらのことから、距骨に限らず足根管や動脈走行部位の外傷では末梢循環障害を生じる可能性が考えられ、下肢外傷疾患の予後に大きな影響与える為、末梢循環障害に対する評価・治療は重要であると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、症例に対して検査前に今回の研究の意義、説明と同意を得た。

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© 2019 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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