主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 101
【目的】
人工股関節全置換術(以下,THA)後は歩行時の股関節内転角度と股関節外転モーメントが低下していることが明らかとなっている(Beaulieu, 2010).THA 後の歩容改善を目的とした理学療法を実施する上で,立位重心側方移動は閉鎖運動連鎖での股関節内転運動を伴う股関節外転筋群の遠心性収縮を促す運動課題である.一方で,代償運動や重心移動の大きさ等の評価は主観的であることが現状である.そこで本研究の目的は,画像を用いた運動学的解析にてTHA 患者の立位重心側方移動を評価し,経時的変化と歩行レベルとの関係を調査することとした.
【方法】
対象は,当院にて変形性股関節症に対して初回片側THA を実施した2 例であり,立位重心側方移動の評価時期は術前・術後1 週・2 週・3 週とした.運動学的解析は頭頂部・両肩峰・両腸骨稜上縁・両股関節中心・両膝関節中心・両足関節中心の11 ヶ所に直径2.5cm のマーカーを貼付し,前方よりデジタルカメラ(30fps)にて撮影した.術側への立位最大側方移動後3 秒間保持させ,中間1 秒間における体幹側屈角度・骨盤側方傾斜角度・術側股関節内転角度・身体重心位置(以下,COG)から術側股関節中心までの水平距離(以下,股レバーアーム長)・COG から術側足関節中心までの水平距離(以下,足レバーアーム長)を算出した.各レバーアーム長は身長(BH)にて正規化を行った.また,手術日よりT 字杖歩行自立まで要する日数を診療カルテより調査した.
【介入内容】
術後の理学療法は当院のプロトコルに準じ,ドレーン抜去後より離床を開始し,疼痛に応じて関節可動域運動,筋力増強運動,歩行練習等を行った.また,歩行時における体幹側屈や骨盤側方傾斜等の代償運動の抑制を目的とした動作練習を状況に応じて実施した.
【結果】
2 例の各評価項目を示す.1 例目:体幹側屈角度(術前:-0.87,術後1 週:-1.97,2 週:-5.74,3 週:-2.39[° ] [ 術側側屈を+]),骨盤側方傾斜角度(術前:3.68,術後1 週:1.03,2 週:1.73,3 週:1.77[° ] [ 術側骨盤下制を+]),術側股関節内転角度(術前:10.74,術後1 週:11.25,2 週:14.66,3 週:12.51[° ]),股レバーアーム長(術前:0.12,術後1 週:0.14,2 週:0.14,3 週:0.14[% BH]),足レバーアーム長(術前:0.02,術後1 週:0.03,2 週:0.01,3 週:0.01[% BH]),術後7 日目にT 字杖歩行自立.2 例目:体幹側屈角度(術前:4.59,術後1 週:4.07,2 週:3.06,3 週:2.04[° ]),骨盤側方傾斜角度(術前:0.15,術後1 週:-0.39,2 週:-1.69,3 週:1.45[° ]),術側股関節内転角度(術前:14.69,術後1 週:6.44,2 週:9.38,3 週:13.28[° ]),股レバーアーム長(術前:0.15,術後1 週:0.15,2 週:0.15,3 週:0.15[% BH]),足レバーアーム長(術前:0.03,術後1 週:-0.01,2 週:0.02,3 週:-0.01[% BH]),術後10 日目にT 字杖歩行自立.
【考察・結論】
2 例の立位重心側方移動の各評価項目の経時的変化は異なるものであった.骨盤側方傾斜角度において,1 例目は術前と比較して術後に減少しているが,2 例目は術前と術後1 週・2 週時にて傾斜方向の逆転が生じている.股関節内転角度において1 例目は徐々に増大しているが,2 例目は術後1 週時に減少した後に増大している.手術日よりT 字杖歩行自立まで要する日数を考慮すると,1 例目にみられた術後早期の骨盤側方傾斜角度の減少や股関節内転角度の増大が歩行レベルの改善に影響を及ぼしていた可能性がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は臨床研究に関する倫理指針に従って行った.対象者には研究の趣旨について説明し書面にて同意を得た.なお本研究は大分大学福祉健康科学部倫理委員会の承認(番号:F200026)を得て実施した.