九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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THA 術後早期から骨盤・体幹へのアプローチにより、姿勢・歩容が改善した一症例
*臼井 一貴*篠原 晶子*中村 眞須美*有福 浩二
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キーワード: 人工股関節, 姿勢, 歩容
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p. 102

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抄録

【目的】

変形性股関節症に加え多発性腰椎圧迫骨折を受傷後、腰椎屈曲位で生活され左人工股関節全置換術( 以下、THA) を施工した50 代女性を担当した。症例に対し歩行能力の向上、家事動作の獲得、見た目の改善を目標に姿勢・歩容へ着目しアプローチした結果、目標を達成したので報告する。

【症例紹介】

症例は50 代女性で、4 年前より両股関節痛が出現。翌年に多発性腰椎圧迫骨折を受傷し、その影響から日常生活において支障をきたしていた。今回、左股関節の疼痛が増悪したため、左THA を施工した。Demand は、「何も使わずにしっかり歩ける、家事ができる、まっすぐ立てる」であり、50 代と若いことから、ADL 向上だけでなく、本人が望んでいる見た目の改善が必要であった。そこで、Need を「姿勢改善、歩容改善、歩行能力向上」とした。

【経過】

初期評価時( 術後16 日) の心身機能・構造は、疼痛:歩行時に腰部痛、ROM:左股関節伸展-20°、MMT:左股関節外転2 外旋2、トーマステストとエリーテスト:左陽性、左片脚立位時間:1.23 秒であった。立位姿勢は、骨盤前傾に加え、股関節・膝関節は屈曲位を呈し、体幹伸展保持が不能であった。歩行は、10m 歩行時間11.54 秒、歩数22 歩、歩幅0.45 mであった。また、歩容は前額面状で骨盤の左右動揺が著明に認められ、独歩の安定性が低下している状態であった。そこで問題点として、股関節屈曲筋の短縮、股関節伸展制限、股関節外転筋力低下、腹筋・背筋群の筋力低下を挙げた。アプローチとして股関節ROMex、ストレッチ、筋力訓練のみならず、腹筋群・背筋群の筋力訓練、骨盤前後傾モビライゼーションを取り入れた。50 代という年齢を加味し、エクササイズの負荷を段階的に漸増するとともに、早期から自主訓練を積極的に行ってもらった。その結果、退院前評価時( 術後51 日) の心身機能・構造において、疼痛は消失、ROM:左股関節伸展-10°、MMT:左股関節周囲筋4、左片脚立位時間:30 秒以上に改善した。立位姿勢は股関節軽度屈曲、骨盤前傾は残存したものの初期評価時よりも容易に骨盤後傾・体幹伸展保持が可能となった。10m 歩行時間8.39 秒、歩数18 歩、歩幅0.56m となり、歩行スピードは向上し、骨盤左右動揺が減少し独歩を獲得した。

【考察】

初期評価時点では、左股関節伸展制限、左股関節屈曲筋の短縮、体幹・左股関節周囲の筋力低下により、立位姿勢は骨盤前傾、体幹も屈曲位となり重心が後方に位置していたと考える。これに対して、股関節周囲のアプローチのみならず、骨盤・体幹に対しての筋力訓練やモビライゼーションを取り入れたことで、骨盤後傾を保持できる筋力が向上し、体幹伸展が可能となった。この結果、見た目を意識した立位姿勢の獲得を達成できた。さらに家事動作の向上に繋がったと考える。歩行においては、初期評価時に著明に認められた骨盤左右動揺は、横方向へのモーメントを増加させ前方への推進力を減少させていたと考える。上記のアプローチの結果、股関節外転筋力が向上したことで横方向へのモーメントが減少し、前方への推進力が増加したと考える。同時に股関節伸展可動域拡大により歩幅が増幅し、10m 歩行時間の短縮に繋がったと考える。したがって、本人が望んだ年齢相応の歩容「何も使わずにしっかり歩ける」というDemand の達成には、THA 術後に対する股関節可動域や筋力練習だけでなく、早期から姿勢や歩容に着目し、体幹や骨盤にアプローチしていくことが必要であり、この症例においては圧迫骨折の再発予防に対する取り組みが今後の課題と考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき本発表に関する説明内容を実施し、同意を得た。

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