主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 104
【はじめに】
今回、左リスフラン関節脱臼骨折に左足コンパートメント症候群を合併した症例を経験した。足部の皮膚状態が悪く、治療法の第一選択である手術療法が行えず、保存療法での加療となった。骨折の整復が不良である事を考慮しながら、歩行能力の改善に着目し理学療法を展開した。結果、歩行能力が改善し、自宅退院を果たした症例を報告する。
【症例紹介】
60 歳代男性。2021 年2 月、仕事中に鉄板が左足に落下し受傷。同日、当院へ入院。診断名は左リスフラン関節脱臼骨折、左足コンパートメント症候群。コンパートメント症候群に対しては、高気圧酸素療法を施行。リハ指示は、受傷後4 週間シーネ固定、4 週より疼痛に応じて荷重、ROM 練習開始。
【経過】
受傷後4 週、骨折部の疼痛は、歩行の左MSt からTSt にかけてNRS3。MMT は、左足関節背屈4、底屈2。左足関節背屈ROM は0°。足部周囲径はFOE にて計測し、健患差+4cm。入院時、足底の一部皮膚が黒色化し、皮膚状態不良であったが、4 週後では皮膚状態は改善。感覚は、左足底部に痺れを伴う中等度の感覚鈍麻あり。歩行はT 字杖歩行可能。左MSt 後期における足関節背屈可動域の減少が見られ早期に踵離地が生じ、同時に骨折部痛が増強。10 m歩行9.8 秒。左片脚立位は1 秒未満であった。受傷10 週後の退院時、歩行時痛は消失。MMT は、左足関節背屈5、底屈3。左足関節背屈ROM は15°。足部周囲径はFOE で健患差+2cm。左足底部感覚鈍麻は改善。歩行は独歩可能。左MSt 後期における足関節背屈可動域は増加したが、TSt での踵離地が見られず遊脚期へと移行。10 m歩行6.9 秒。左片脚立位は12.4 秒で体幹動揺は減少。
【考察】
本症例は、骨折の整復が不良な状態での保存療法を余儀なくされた。Coldwellは中足骨の骨癒合期間は6 週と述べている。今回、整復が不良である上に、4週でのレントゲン所見にて仮骨形成は見られず、骨癒合には時間を要することが予測された。よって、理学療法展開において、骨折部への過度な負荷を考慮する必要性があると考えた。4 週での歩行では、左MSt 後期における足関節背屈可動域の減少と早期の踵離地が観察され、TSt に疼痛が増強した。通常、下肢回転中心は踵骨、足関節、前足部の順に移動するが、本症例では踵骨から早期に前足部へ移動し、足関節を回転中心とするアンクルロッカー機能の消失が確認された。江原は正常歩行において、立脚中期から終期にかけて足関節は10°背屈し、その後回転中心は足関節から前足部へ移動すると述べている。本症例は左立脚期の足関節背屈可動域の減少により、下肢回転中心の移動が正常から逸脱したと考える。結果的に、骨折部に過度な負荷が生じ、疼痛を増強させているとともに、骨癒合を阻害する可能性があると考えた。以上より、重要な問題点の一つを左足関節背屈可動域制限とし、理学療法を展開した。10 週では、左足関節背屈可動域は15°まで拡大し、左MSt 後期における足関節背屈角度の増加が見られ、足関節を回転中心とするアンクルロッカー機能が認められた。しかし、回転中心が足関節から前足部へ移動する前に、足底が完全に離地する歩容へと変化した。これは骨折部への荷重を避ける代償的な歩容と考えられ、骨癒合半ばの現状況においては、疼痛を伴わず、骨折部への負荷を最小限に抑えた効率的な歩行ではないかと考えられた。今後、骨癒合が完了する時期にかけて、下肢回転中心が踵骨、足関節、前足部の順に移動する協調的かつ効率的な歩行の再学習・取得が課題である。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき対象者には発表の趣旨を説明し同意と承諾を得た。開示すべき利益相反はい。