九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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当院回復期病棟における装具療法によるFIM 利得の変化や処方する装具の種類の変化について
*浦 海翔*川上 文昭*有村 圭司
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p. 106

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抄録

【はじめに】

当院リハビリテーション室において、脳血管疾患患者の早期離床や効果的な機能改善を図る目的で2016 年から訓練用長下肢装具を導入し、2019 年に当院での先行研究においてデータを取り始めた2014 年から2019 年までの経過にて装具作成によりFIM 利得に差がみられ在宅復帰率にも影響があることを報告した。今回は、先行研究から2 年が経過した現在の装具療法実施状況や傾向を把握し、分析することで今後の効果的な装具療法実践の一助とすることを目的としている。

【対象と方法】

2014 年4 月から2021 年3 月までに当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハビリ病棟)を退院した脳血管疾患患者454 名のうち、装具療法を実施した87 名を対象とした。対象者について、装具作成の有無、作成した装具の種類、装具療法開始までの日数、在院日数、FIM の総合得点、運動項目の合計得点、移動項目の各点の利得、在宅復帰の有無などを電子カルテより抽出した。解析は、対象を本人用装具を作成した群(以下、作成群)と作成していない群(以下、非作成群)との2 群に分け、各項目の比較を行った。また、回復期リハビリ病棟における装具療法実施状況の傾向を調査するため、対象期間により前期群(2014 年~ 2017 年)40 名と後期群(2018 年~ 2020 年)47 名に分けて各項目を比較した。統計学的解析にはEZR on R commander Version1.37 を用い、有意水準は5%とした。差の検定にはMann-WhitneyU 検定を行った。また、順序尺度や名義尺度についてはχ二乗独立性検定を行った。

【結果と考察】

作成群と非作成群の2 群間で各項目を比較すると、FIM 利得の総合得点、運動項目、移動項目のいずれにおいても有意に高く、より高い身体機能や日常生活動作能力を獲得していた(P < 0.05)。作成群と非作成群で在宅日数の違いと在宅復帰の有無をみてみると、作成群で有意に在院日数が長く、在宅復帰しているものが多かった(P< 0.01)。また、2 群間でFIM の利得を比較が高く、在宅復帰する者が多いことがわかった。次に、前期群と後期群の2 群間で各項目を比較すると、装具療法開始までの日数が後期群で有意に短かった(P < 0.05)。また、FIM 利得に着目すると、移動項目の利得には有意差がみられなかったが、運動項目全体の利得では後期群で有意に高値を示した(P < 0.05)。一方で、作成した装具の種類の傾向をみてみると、長下肢装具の作成数が多くなっていた。これらのことより、装具処方を行う目的が歩行獲得だけでなく、幅広い目的で処方され、早期に装具療法を開始し、本人用の長下肢装具を作成する機会が増え、結果的に移動項目以外での得点が向上しているのではないかと考える。

【終わりに】

今回の調査では、先行研究の流れを受けて、本人用装具作成により、FIM 利得向上や在宅復帰にも一定の効果がある事が統計学的にも明らかになった。また、先行研究と比較すると装具処方の目的が広がっており、本人用長下肢装具作成の機会が増えていた。今後は今回の調査を踏まえて、各患者に合わせた適切な装具療法の実施や作成に向けた取り組みを進めていきたいと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

「本研究の計画立案に際し,事前に当院の倫理審査員会の承認を得た(承認日令和3 年5 月5 日)。 」

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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