主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 113
【はじめに】
人工膝関節全置換術(TKA) 後の膝伸展筋力の回復はADL およびQOLの改善に影響をおよぼすことから,術後の膝伸展筋力の低下を予防することは重要である.しかしながら,実際の臨床場面ではTKA 術後の膝伸展筋力が術前と同程度までスムーズに回復するケースとその回復が遅延するケースが存在する.TKA 術後のリハビリテーションを効果的に推進していくためには,このような症例の特徴を明らかにする必要があると考える.そこで,本研究ではTKA 症例を対象に術後の膝伸展筋力が術前と同程度まで回復したケースとそうでなかったケースの痛みと運動パフォーマンスの経時的な変化を検証することを目的とした.
【方法】
対象は2019 年4 月から2021 年3 月に当院でTKA を施行した症例106 名のうち,認知症により測定困難な症例,術後合併症や神経難病,神経系疾患を有する症例等の除外基準を満たし,データの欠損がなかった43 名( 平均年齢:74.6 ± 6.5 歳,男性8 名,女性35 名) とした.評価項目はハンドヘルドダイナモメーターを用いて計測した膝伸展筋力(術側と非術側),痛み,運動パフォーマンスとし,これらの項目を術前,術後2 週目,術後4 週目に測定した.痛みについては安静時・運動時・荷重時の痛みの有無と反芻・無力感・拡大視といった下位尺度から構成されるPain Catastrophizing Scale(PCS)を評価し,運動パフォーマンスについてはTimed Up and Go(TUG)を計測した.分析手法については,対象者を術後4 週目の術側膝伸展筋力の測定結果をもとに,術前まで回復していた良好群(14 名)と回復に至らなかった遅延群(29 名)に分け,術前・術後2 週目・術後4 週目時点における評価項目を比較検討した.
【結果】
良好群における術側の膝伸展筋力は,術前は遅延群よりも有意に低値を示したが, 術後2 週目・術後4 週目の時点においては遅延群よりも有意に高値を示し,非術側の膝伸展筋力は術後4 週目において良好群は遅延群に比べ有意に高値を示した.また,良好群では術後2 週目のPCS 無力感の得点が遅延群に比べ有意に低値を示した.一方,良好群の術側膝伸展筋力は術前と術後2 週目は有意差を認めず術後2 週目から4 週目にかけて有意に増加したが,遅延群は術前から術後2 週目にかけて有意に低下し,術後2 週目と4 週目の間で有意差を認めなかった. さらに,良好群のTUG は術前と術後2 週目で有意差を認めず,術後2 週目から4 週目にかけて有意に改善したが,遅延群では術前から術後2 週目にかけて有意に悪化し,術後2 週目から4 週目にかけて有意に改善した.
【結語】
TKA 術後の膝伸展筋力が術前と同程度まで回復する症例の特徴としては,術後早期からの膝伸展筋力や歩行能力が維持されていることに加え,痛みに対する破局的思考が低いことが挙げられた.したがって,TKA 術後のリハビリテーションを効果的に進めていくためには,痛みの認知的側面の修正を図りながら運動パフォーマンスを向上していく必要があると思われる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,個人情報を匿名加工することによって患者が特定されないように配慮した.