主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 117
【はじめに】
本症例は, 画像所見より視床出血による錐体路損傷が推測された為, 先行研究より自立歩行困難でADL は車いす主体と予測し, 非麻痺側での代償運動や環境因子を活用した治療戦略が適応と考えた. しかし, ガイドラインに基づいた装具療法やロボティクスリハビリテーションを駆使した課題指向型アプローチを実践することで予後予測を上回る能力を獲得することができた. 本症例を通して, 画像所見ではなく評価や臨床症状の経過を踏まえて, 歩行再建に向けた理学療法について再考したので, ここに報告する.
【対象】
60 代男性. 右視床出血( III a 型:26.4ml) を発症し, 発症から37 日経過. Brunnstrom-stage( 以下Br.s) 上肢I / 手指I / 下肢II, 感覚: 重度鈍麻,ROM: 左足関節背屈0 ° ,Modified Ashworth Scale: 足関節1+,Scalefor Contraversive Pushing:1.5( 立位),FunctionalAmbulationCategories:0,Functional Indepence Measure:54 点( 運動項目:31点),BergBalanceScale:7 点( 起立3, 着座3, 移乗1).Mini-MentalState Examinaton:30 点, 基本動作は端座位:見守り, 起立・立位保持:軽介助. 高次脳機能:注意障害, 半側空間無視.
【経過】
1 期(発症から 37 ~ 58 日後)は, 静的立位の安定性獲得を目的に視覚的FeedBack を用いた立位保持練習,BWSTT を使用した長下肢装具(以下KAFO)装着下での後方介助歩行を実施した. 結果, 手すり把持での立位保持が見守りで可能となった.2 期(発症から59 ~ 80 日後)は, 下肢Hybrid AssistiveLimb®︎(以下HAL)を用いた歩行練習,起立- 着座練習(100 回/ 日), サイドケイン歩行練習を実施した. 歩行練習は, 前型歩行が促されるように装具の難易度をKAFO → AFO+Knee-brace → AFO へと段階的に調整して実施した結果,AFO でのサイドケイン歩行が中等度介助で可能となった. ここで生活場面での限定的な歩行導入を目標に上方修正を行った.3 期(発症から 81 ~ 95 日後)は,麻痺側下肢振出しの要領獲得を目的にHAL を用いた歩行練習, 平行棒内歩行練習, 杖歩行での姿勢制御能力獲得を目的に安全懸架装置使用下での片ロフストランド杖歩行練習を実施した. 結果,AFO での片ロフストランド杖歩行は軽介助で可能となった.4 期(発症から96 ~ 117 日後)は, 実用的な歩行獲得を目的に安全懸架装置使用下での四脚杖・T 字杖歩行練習, 生活場面での歩行練習を実施した. その結果,Br.s 下肢III , 感覚:重度鈍麻で機能面の著明な改善は認めなかったが,AFO での四脚杖・T字杖歩行が見守り, 生活場面での短距離移動は四脚杖歩行にて自立となった.
【考察】
先行研究ではADL 能力と錐体路の損傷程度は関係性が高いという報告がある一方で, 歩行能力と錐体路損傷程度は相関しないという報告もある(Sivaramakrishnap 2018). 今回, 早期からガイドラインに基づいた装具療法やロボティクスリハビリテーションを駆使した積極的な課題指向型アプローチを実践することで,CPG 経路を中心に賦活し錐体路に依存しない歩行システムを再構築できたことが考えられる.本症例を通して, 広範囲な錐体路損傷患者においても歩行獲得は可能であったことから, 画像所見だけでなく, 経過を含めた病態像を把握した上で理学療法を展開することの重要性を感じた.また,近年脳血管治療やリハビリテーション技術が進化している中で, 先行研究で報告されている予後予測やその結果も変化していると思われる. 今後私たちは”過去の予後予測を超える“理学療法を実践できるように努力していきたい.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に基づき, あらかじめ口頭にて本報告の内容, 個人情報の保護を十分に説明し, 同意を得た.