九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
会議情報

患者の重症度や認知機能等を考慮したWelwalk の活用方法について
運動課題・フィードバック方法に着目して
*堀 菜緒佳*松浦 健太郎*野中 裕樹*藤井 廉*田中 慎一郎
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キーワード: Welwalk, 課題, フィードバック
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p. 12

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抄録

【はじめに】

発症早期からの歩行練習支援ロボットWelwalk を用いた訓練は歩行能力の予後を改善することが報告されている.しかし,患者個々の特性に応じた課題難易度等の基準は明確となっていないがゆえ,臨床場面では具体的な訓練内容のデザインに苦慮する場面が多い.今回,Welwalk の代表的な機能である“ロボット脚によるアシスト” や“視覚と聴覚のフィードバック” の調整に加え,“運動課題” や“フィードバック方法” を患者の特性に応じて詳細に設定したことでWelwalk を有効に活用できた2 例の重度片麻痺患者を経験したため,報告する.

【症例紹介】

症例1 は,右脳分水嶺梗塞,右小脳梗塞,多発性散在性小梗塞による重度左片麻痺を呈した80 歳代の男性であった.理学所見について,MMSE は精査困難,SIAS 下肢運動機能は0. 0. 0 で,歩行FIM は1 点であった.見当識障害や全般性注意障害などの高次脳機能障害が顕著であり,訓練中において指示理解や注意の持続が困難であった.症例2 は,右放線冠梗塞による重度左片麻痺を呈した70 歳代の女性であった.理学所見について,MMSE は17 点,SIAS 下肢運動機能は2. 3. 2 で,歩行FIM は1 点であった.症例2 に関しては認知機能の低下の影響により訓練中の注意持続が困難であったものの,症例1 と比較してコミュニケーション能力は良好であった.

【Welwalk を用いた訓練方法】

症例1 について,運動課題は立位保持課題から開始した.注意散漫やコミュニケーション能力の低下が確認されたためフィードバック量は最小限に留めた.前方モニターに前額面での正中線のみ掲示し,身体を正中に保持するようセラピストが後方から介助した.自力で身体の正中位保持が可能となった段階で,歩行課題へと移行した.症例2について,症例1 と比較し身体機能は良好であったため歩行課題から開始した.口頭にて注意のコントロールが可能であったため,正中線に加えて足型の提示,前足部への荷重量に伴い音が鳴る聴覚的フィードバックを活用し,セラピストが後方より介助した.また,訓練後は訓練中の歩行動画を用いてフィードバックを行った.症例1,2 ともに2 〜3 ヶ月間の継続的な介入を実施した.

【結果】

症例1 では,SIAS 下肢運動機能は3. 3 .3 に改善,歩行FIM は1 点から3 点に改善し,歩行量は全介助での10m から中等度介助での50m に延長した.症例2 では,SIAS 下肢運動機能は4. 4 .4 に改善,歩行FIM は1 点から4 点へ改善し,歩行量は全介助での20m から最小介助での50m に延長した.

【考察】

Welwalk の有用性は先行研究で明らかにされているが,高次脳機能障害や認知症を合併した症例は研究対象から除外されることが多い.本症例報告によって,高次脳機能障害を有する重症度が高い患者であっても,一定の改善効果を得られることが示された.Welwalk の特徴として課題特異性,動機付け,練習量,難易度,フィードバックの5 つがあり,今回,症例1 では,注意障害の存在を考慮し,平易な運動課題から実施,症例2 では,認知機能の低下による影響を考慮しながら入力可能な範囲にて積極的なフィードバックを実施した.高次脳機能障害を有する患者にWelwalk を導入する際は,患者の状態に応じた適切な“運動課題” や“フィードバック方法” の詳細な設定が重要であると考えられた.

【結論】

Welwalk を用いた訓練を行う際は,身体機能に加え,高次脳機能障害やコミュニケーション機能に応じて適切な運動課題やフィードバック手段を設定することで,高次脳機能障害や認知機能の低下を有する患者であっても一定の改善効果が得られることが示された.

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき,症例には十分な説明を口頭で行い,同意を得た.

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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