九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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脊椎圧迫骨折患者における椎体圧潰の変化が痛みや日常生活動作能力に及ぼす影響
*家里 健太*渡部 果歩*野口 雄平*長谷川 隆史*小無田 彰仁*岩永 斉
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p. 121

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抄録

【緒言】

脊椎圧迫骨折(VCF)は,転倒や骨粗鬆症等に伴う骨の脆弱性を起因とする高齢者に多い骨折である。VCF 患者の多くは腰背部痛を有しており,痛みにより日常生活動作(ADL)に支障を来すことがある。また,VCF の診断や経過観察を目的にレントゲン画像を使用することが多く,その指標として椎体圧潰率を用いることがしばしばある。更に,再骨折のリスク管理として骨密度を測定することがあるが,それらと痛みやADL との関係性を検討した報告は少ない。そこで本研究の目的は,VCF 患者の椎体圧潰の変化と骨密度が,痛みやADL の機能的予後に及ぼす影響について検討する事とした。

【対象と方法】

対象は胸腰椎移行部の魚椎型VCF と診断され,当院回復期リハビリテーション病棟(回リハ病棟)に入院した65 歳以上の高齢者で,2019 年8 月1 日~ 2021 年3 月31 日に回リハ病棟を退棟し,入院前後1 週間に骨塩定量検査を実施した10 名とした。本研究は後方視的観察研究で,椎体中央高やFIM 運動項目(mFIM),最大痛み強度NRS の各項目における入院時と退院時の比較を行った。更にそれらの変化率と変化量(圧潰変化率, ADL 変化率,痛み変化量,)を算出し,腰椎骨密度を含めて相関分析を行った。各パラメーターの正規性の確認にShapiro-Wilk の正規性検定を行い,正規性が確認できなかったことから,入院時と退院時の比較にWilcoxon 符号付順位検定,相関分析にはSpearman の順位相関係数を適用した。尚,有意水準は5% とした。

【結果】

入院時と退院時の比較において,椎体中央高は2.04 ± 0.33cm,1.83± 0.28cm と退院時に有意な減少を認めた。また,mFIM は24.6 ±8.6,78.2 ± 11.5,最大痛み強度NRS は6.5 ± 1.8,0.0 とそれぞれ有意な改善が認められた。一方,それらの変化率及び変化量,腰椎骨密度の各パラメーター間の有意な相関は無かった。

【考察】

入院経過とともに椎体圧潰は進行したが,mFIM,最大痛み強度NRS の有意な改善が見られたことから,画像上の圧潰進行は運動機能,痛みの改善には影響を及ぼさない可能性があると考えられる。渋谷らはレントゲン画像での骨折椎体面積と動作時痛の間に相関は無かったと報告しており,本研究の結果と一致している。また,本研究では椎体中央高の変化率と入院前後の腰椎骨密度の間に相関は無かったが,Haoran らは骨量が低いほど椎体圧潰が重度になると報告しており,本研究の結果とは一致しなかった。この要因として骨量評価及び椎体圧潰の画像評価方法の違いが影響している可能性がある。椎体圧潰の進行を予測する因子について,より正確な画像評価手段の検討を含めて,更に検証する必要性があるものと考える。本研究の限界として,VCF タイプをサブグループ化し,受傷高位を限定したことからサンプルサイズが小さく,十分な検証ができていなかった可能性がある。今後は多施設共同研究を視野に入れて,圧潰進行による脊椎アライメント変化と再骨折のリスクについても検討していきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分に留意し,当院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:wjk-rh003)。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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