九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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体幹前屈を有するパーキンソン病患者に対するTrunkSolution® の効果検証
*山口 滉大*本多 歩美*楠本 菜々*山田 麻和
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p. 15

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抄録

【はじめに】

パーキンソン病(PD)患者は体幹前屈を呈しやすく,体幹前屈の有無は移動能力予後の重要な関連因子と報告されている(久我ら,2016).しかし,パーキンソン病理学療法診療ガイドライン(望月ら,2011)では,体幹前屈に対するリハビリテーション(リハ)のエビデンスは記載されていない.近年,継手の力を胸部前面に与えることで胸郭が伸展方向にモーメントを受け,その反作用で骨盤に前傾方向へのモーメントが生じ体幹を伸展させる機構をもつ継手付き体幹装具Trunk Solution®(TS)が開発されている(勝平,2015).今回,体幹前屈を有するPD 患者に対してTS の効果を検証した.

【対象】

人的介助を要さずに2 分以上の連続歩行が可能であり,体幹前屈を有するPD患者10 名( 男性7 名,女性3 名,年齢75.0 ± 7.2 歳,罹病期間7.1 ± 5.0 年,Hoehn and Yahr 重症度分類 stage3:6 名,stage4:4 名,Mini Mental StateExamination 24.7 ± 3.0 点) を対象とした.身体機能は,Unified Parkinson’ sDisease Rating Scale Part III 36.9 ± 16.6 点,Berg Balance Scale 48.4 ± 5.3 点,2 分間歩行試験時の歩行距離(2MWD)103.3 ± 22.9m,体幹前屈角度(Th1とS1 を結んだ線と鉛直線のなす角)を脊柱計測分析器にて測定し,23.6 ± 9.6度(15-40 度)であった.体幹前屈角度が45 度以上または腰部の疼痛増強がある患者は除外対象とし,TS は服薬調整が概ね終了した時点から開始し服薬の影響を最小限とした(入院からTS 開始までの期間21.2 ± 12.7 日).

【方法】

介入はTS 装着下での歩行練習を20 分間,2 日に1 回,計6 回リハ時間内に実施した.リハは2 時間/ 日,6 回/ 週とし,TS 以外では患者の個別性に応じた複合運動や日常生活動作練習などの通常リハを行った.主要評価を体幹前屈角度,2MWD,副次評価を10m 歩行試験,片脚立位時間とし介入前後に実施した.統計処理はWilcoxon の符号付き順位検定を用い,有意水準は5% 未満とした.

【結果】

介入後平均値,改善度(介入後−介入前)の順で結果を示す.体幹前屈角度は17.8 ± 9.7 度,-5.8 ± 6.6 度と伸展方向へ有意に改善し(P=0.01),2MWDは114.3 ± 16.2m,11.0 ± 13.7m と有意に延長した(P=0.03).10 m歩行試験では歩行速度(P=0.02)と歩行率(P=0.04)は有意に改善し,片脚立位時間は左右とも延長したが有意差は認めなかった.対象からは,背筋が伸びている(6 名),長く歩いても疲れない(3 名),腰痛が軽減した(2 名)など肯定的な意見が聞かれた.

【考察】

TS の効果については,脳卒中患者における体幹伸展(Katsuhira ら,2014)や,高齢者における有意な体幹伸展と立脚初期の股関節外転モーメントが増大し歩行スピードが向上した(飯島ら,2014)などの報告があり,PD 患者においても先行研究と同様の作用にて体幹伸展し,歩行スピードが向上したと考えられた.体幹前屈位での歩行は姿勢保持のために股関節伸展筋群の大きな筋力が必要とされ(佐久間ら,2010),体幹が前屈することで歩行時の蹴り出しに必要な足部をはじめとした下肢筋や背部筋が過剰に働き,筋の易疲労性を引き起こすため連続歩行距離が短くなる(坂光ら,2007)と報告されている.今回,PD 患者ではTS 装着により体幹が伸展し,姿勢保持に必要な筋群の過剰な働きが軽減し,2MWD の延長に繋がったのではないかと推察した.

【結語】

PD 患者における前屈姿勢に対し,TS による姿勢および歩行の改善が得られ,TS の有効性が示された.今後は,TS の適正回数の検討および通常の姿勢矯正練習との比較検証を行う予定である.

【倫理的配慮,説明と同意】

介入はヘルシンキ宣言の勧告に従い,対象者に対して説明と同意を得て実施した.

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