九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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訪問リハビリテーションでの促通反復療法により屋外歩行が自立した脳梗塞合併の多発性硬化症の一例
*内村 寿夫*中村 裕二*田島 拓実*濱添 信人*當房 紀人*早川 亜津子*川平 和美
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p. 17

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抄録

【目的】

多発性硬化症( 以下 MS ) は多様な神経症状を呈し若年成人に多いが, 在宅でのリハビリテーション治療( 訪問リハ治療) は,現状維持を目的とする治療内容が多く,機能回復と歩行や ADL の向上を目指した積極的な訪問リハ治療は少ない.社会活動が必要な MS 例には脱髄による麻痺や歩行障害, ADL 障害への積極的訪問リハ治療が必要だが, 標準的な治療内容についての報告は見当たらない.選択肢として脳卒中や脊髄損傷の麻痺や歩行, ADL の改善効果が科学的検証で確認されている促通反復療法( 川平ら 2017 ) が挙げられる.今回,脳梗塞合併の MS 例への訪問リハ治療で,持続的電気刺激下の促通反復療法を体幹と下肢に用いて,麻痺と歩行が向上し屋外歩行が自立したので報告する.

【症例】

症例は 39 歳, 女性. 2018 年 3 月,右上肢の巧緻性の低下と右下肢の脱力が出現する.他院を受診し MS と診断され, 内科治療と入院リハ治療によって右上下肢の麻痺改善( 足関節底背屈低下は残存) と歩行自立( 短下肢装具装着)して, 4 月に退院した.2020 年 4 月,両下肢の異常感覚が出現して他院を受診して MS 再発との診断で内科治療が始まった. 同年 8 月には右片麻痺と歩行困難が出現して新たな脳梗塞と診断され, 2 カ月のリハ治療を受けて屋内の伝い歩き自立,屋外歩行一部介助で退院した.11 月 ,「 一人で買い物に行きたい」を主訴として , 当院を受診し,訪問リハと外来リハ治療を受けた.

【評価】

麻痺(BRS) は 右上肢 VI ,右手指 VI ,右下肢 III ,筋力( MMT )が右股関節屈曲 3 ,伸展 3 ,外転 4 ,内転 4 ,右膝関節屈曲 2 ,伸展 4 ,右足関節背屈1 ,底屈 1 ,両下肢の関節位置覚が足関節・足趾重度鈍麻,TUG が 12.8 秒,神経症状評価尺度 で ある EDSS スコアが 6 ,歩行は短下肢装具での屋外歩行( 最小介助),右下肢の外旋し軽度分回しあり.

【治療方法】

体幹・下肢への電気刺激併用の促通反復療法 6 種(30 分),ステップ練習,自主練習指導を行った.頻度は訪問リハ治療(1~3 回/ 週) と外来リハ治療(2 回/ 月) で,期間は令和 2 年 11 月から6 カ月( 計 30 回) である.

【結果】

6 カ月間の訪問リハ治療によって, 麻痺が右上肢 VI ,手指 VI ,下肢 IV ,MMT が右股関節屈曲 4 ,伸展 4 ,外転 5 ,右膝関節屈曲 3 ,伸展 5 ,右足関節背屈 2 ,底屈 2 ,TUG が 9.7 秒,EDSS スコアが 5.0 と改善した.歩行は屋外歩行も自立し,「一人で買い物に行くこと」が可能となった.

【考察】

脳梗塞合併の MS の一例に訪問リハ治療として麻痺と歩行を改善するため電気刺激下の促通反復療法を行い,右下肢機能と歩行の改善が得られた. 慢性期の MS に対する訪問リハ治療は 2 次的合併症予防に意識が向きがちだが,神経路の再建強化を促進する電気刺激下の促通反復療法は麻痺や歩行, ADL の向上が期待できることが示唆された.また,低頻度の治療でも効果が得られたことから,訪問リハ治療で促通反復療法が選択肢の一つになると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究の計画立案に際し,事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認番号 第R3-4 号)。 また研究の実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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