九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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妻の介助での自宅退院が可能となった重度片麻痺患者の1 例
移乗介助の補助具を作製しての退院支援
*麻生 裕介
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p. 2

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抄録

【はじめに】

日常生活動作の介助のなかでも移乗動作の介助は、介助者の身体負担も大きく、転倒の危険性も生じる。被介助者の膝を固定し、膝を支点としたてこの原理を利用すれば、少ない介助量での移乗介助が可能であるが、安全な実践には技術の習得が必要である。今回、重度片麻痺患者の在宅への退院支援の中で、被介助者の膝を固定しやすくする移乗介助の補助具を考案・使用し、妻の介助での在宅生活が可能となった経験を報告する。

【症例提示】

70 歳代男性。左中大脳動脈領域の脳梗塞。発症後27 日で当院回復期リハビリテーション病棟に入棟となる。主症状は右片麻痺、意識障害、失語症。入棟時JCS II -10、Brunnstrom stage I - I - II、混合性失語にて会話での意思疎通は困難。FIM は22 点、身長168cm、体重50.5kg。社会的背景は持ち家の一戸建て住宅で妻との二人暮らし。

【経過】

回復期リハビリテーション病棟での入棟期間は131 日間。入棟中に要介護4の介護認定あり。退院時FIM は22 点であり、入棟時と変化なかったが、端座位保持は可能となり、覚醒のムラはあるが、覚醒状態の良い時は掴まり立ちが、腋下を支える程度の介助で可能となった。退院に対しての妻の希望は「自宅でできる限り看たい。」であり、さらに「立って車椅子へ移乗し、日中はベッドから離れて過ごさせたい。」という意向があった。そこで、退院に向けては、妻の介助で移乗動作が行える方法を検討することとした。福祉用具の使用や、介助方法の検討を行ったが、その中で介助者が装着することで被介助者の膝をロックした移乗介助が容易に行える補助具を考案し、妻に介助指導を実施することで、安全な移乗介助を実現する方法を選択した。結果、自宅退院の運びとなり、妻の要望通りの離床時間を確保しながらの在宅生活が可能となった。

【作成・使用方法】

(1)幅1m、高さ12cm 程度のキルト生地の両端を縫い合わせタスキ状にする。(2)中央部分を縦に縫い付け、8 の字状にする。(3)双方の輪の部分に長さ12cm程度の平ゴムを伸ばしながら縫い付け伸縮性をつける。(4)両端上部に、長さ60cm の太めの紐をループ状にそれぞれ縫い付ける。使用方法は、(5)介助者は椅子に座り、両端の紐を保持し補助具に両足を通し装着する。そして、補助具の上端が介助者の膝蓋骨上部を覆う高さに合わせる。(7)端座位にて被介助者の両膝を補助具を装着した膝で挟むようにし、(8)被介助者の両腋下を引き寄せ、臀部離床・回転させることで移乗介助を行う。

【考察】

既に移乗介助を容易かつ安全にするための福祉用具は多くあるが、今回考案した補助具は、介助者本人に装着することで手間を少なくすることができ、また、膝を支点としたてこの原理を容易に利用できることで、少ない力での介助が可能となる。作製にあたり、両膝に装着することによる介助者の安定性の問題が予想されたが、平ゴムを縫い付け伸縮性を付けることで解消された。また、本症例は介助者である妻より身長が高く、痩せ形であった為、膝のロックを利用しての移乗介助方法に適している体型だったと考えることも出来る。

【おわりに】

今回は重度片麻痺患者の妻のdemand を主に考え補助具を考案したが、移乗動作に介助が必要な患者の状態は様々であり、また、移乗介助に関しての福祉用具も様々な種類があり、ニーズに応じたフィッティングが必要である。今回考案した移乗補助具も様々な条件に対応する為の選択肢のひとつになり得ると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

発表にあたり、症例のプライバシー保護に配慮し、ご家族には主旨を説明し同意を得た。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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