主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
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【はじめに・目的】
歩行の獲得が困難な脳卒中患者では,生活範囲の拡大や介助量軽減のため車椅子からベッドへの移乗動作の獲得が重要となる.重度片麻痺患者では「ピボットターン」( 以下pivot) を用いて方向転換する患者も少なくない.今回,左被殻出血を呈した慢性期の重度片麻痺患者1 症例に対し,健常者の三次元動作解析装置での結果を参考に治療アプローチを実施し,立位方向転換の介助量軽減が図れたためここに報告する.
【症例紹介】
症例は50 代男性,CT 画像では左被殻に低吸収域がみられた.Brunnstrom stage II‐II‐II,表在・深部感覚重度鈍麻,FunctionalIndependence Measure(以下FIM)移乗項目1 点,重度失語症や高次脳機能障害(注意・記憶・遂行機能障害),観念運動失行の影響があった.Fugl-Meyer assessment は73 点( 上肢6 点/ 下肢6点) と麻痺側上下肢の随意性やバランス機能の低下が生じていた.Modified Ashworth Scale はハムストリングス・内転筋・下腿三頭筋2,Functional Assessment for Control of Trunk(以下FACT)0 点と体幹機能低下,非麻痺側下肢MMT2 と廃用性の筋力低下を認めた.
【経過】
入院時より移乗動作全介助,立位方向転換は体幹前傾位,両股関節屈曲,麻痺側膝関節屈曲し膝折れが生じ2 人介助を要した.発症225 病日より理学療法を開始,臥床した状態で筋出力や可動域の向上,長下肢装具を併用した立位保持,輪投げを使用した体幹機能訓練を中心に介入.2 ヵ月後より座位保持が見守りにて安定し,平行棒内での立位保持や立ち上がり訓練へ移行.4 ヵ月後よりpivot に必要な非麻痺側足関節底屈の求心性・遠心性収縮にて足関節のMP 支持を促した.体幹機能訓練も継続して実施し,FACT4 点と改善がみられた.12 ヵ月後にFIM 移乗項目3 点,移乗動作の立ち上がり・着座動作に介助を要するが,立位方向転換は見守りにて可能となった.
【考察】
健常者のpivot では,爪先接地から足関節底屈筋の遠心性収縮により踵接地しないようにブレーキをかけることで,足趾のMP 関節での支持を持続的に可能とし,MP 関節を支持面とした回転運動を行っている.回転途中は股関節伸展の求心性収縮にて身体を持ち上げ,回転終了直前では足関節底屈の求心性収縮へ切り替わり最後身体を持ち上げている.また,pivot では狭い支持基底面の中で回転するため体幹を垂直化する方がMoment を少なくでき,体幹伸展角度を大きくすることで効率的な回転が可能であると考えた.体幹機能による抗重力伸展位での立位保持の獲得,非麻痺側股関節伸展筋の求心性収縮,足関節底屈筋の求心性・遠心性収縮に対して訓練を行った結果,立位方向転換介助量の軽減が図れた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言の規定に沿って研究の主旨及び目的を本人・ご家族に対し十分に説明し,書面にて同意を得た.