主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 22
【目的】
重度の歩行障害を呈した脳卒中患者の歩行練習では,長下肢装具(以下,KAFO)を利用する機会が多い.そして,KAFO から短下肢装具( 以下,AFO)への移行は,AFO に適応した歩行パターンの再獲得が生じる時期と考えられる.しかし,AFO への移行に伴い,extension thrust pattern などのような異常運動を呈することがあり,これらの現象は体幹にも影響を及ぼすことを経験する.体幹は歩行安定の重要な因子であるため,移行期における体幹の挙動を検証することは,歩行トレーニングを検討する上で重要である.加速度計は体幹の挙動を評価する上で有用とされ,規則性の指標である自己相関( 以下,AC) や,動揺性の指標である二乗平均平方根( 以下,RMS) などが用いられている.今回,回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中患者に対して,体幹の挙動の変化を加速度計で検証したところ,良好なKAFO からAFO への移行が得られたため,ここに報告する.
【方法】
対象は60 代男性であり,左被殻出血後に右片麻痺を呈した.見守り歩行が可能となった発症後64 日目から,KAFO 使用時,AFO 移行直後,AFO 移行後2 週,AFO 移行後4 週の時点で快適歩行時の体幹の挙動を計測した.KAFO 使用時からAFO 移行までの期間は,膝継手の固定と除去を繰り返し,膝関節の安定後にAFO へ移行した.体幹の挙動は,小型9 軸ワイヤレスモーションセンサ(ロジカルプロダクト社製)を用いて,サンプリング周波数200Hz で計測を行った.貼付位置は第3 腰椎棘突起(以下,L3)および踵骨隆起部とした.踵骨隆起部の加速度信号より歩行周期を同定した.L3 の加速度信号より,5~7 歩行周期分の前後・左右・鉛直成分のRMS およびAC の算出を行った.さらに,Fugl-meyer assessmentの下肢運動項目( 以下,下肢FMA),歩行速度も算出した.
【結果】
本症例では,KAFO からAFO への移行直後に全成分のAC が低下した.一方で,RMS は著変を示さなかった.移行後は,規則性の改善を目的として,左右への体重移動および前方推進の誘導を行いながら歩行練習を実施した.その結果,全成分でAC は向上し,RMS は低下を認めた.下肢FMA および歩行速度は移行後に改善を認めた.
【考察】
AC が低下した要因は,KAFO からAFO へ移行することで膝関節の自由度が高まったためと考える.歩行の規則性とバランス機能は相関することが報告されている.そのため,AFO 移行直後は関節自由度の増加に対して,新たなバランス戦略を獲得する必要があり,AC の一時的な低下が生じたと考える.また,RMS の結果より,AFO への移行に際し下肢の異常運動が生じないことを確認した.体幹の動きは下肢との関連が高いことが報告されている.AFO移行後においても下肢異常運動が出現しなかったため,RMS に影響を与える程の体幹の動揺も生じなかったと推察する.したがって,AFO への移行直後にRMS の変化が生じなかったことは,適切なタイミングでAFO への移行が行えた結果とも考えられる.AFO 移行後の経過において,歩行速度の向上とともにAC の向上およびRMSの減少を示したのは,歩行の習熟を示していると考える.
【まとめ】
KAFO からAFO への移行期の歩行評価において,加速度計を用いた体幹挙動変化の評価を行い,AFO 移行後は体幹のAC 低下を認めたが,RMS は変化しなかった.そこで,規則性の改善に着目した歩行トレーニングを行ったところ,歩行速度の改善ならびにAC の増大,RMS の低下を示した.以上から,加速度計を用いて体幹挙動変化を評価することは,適切なAFO へ移行するタイミングの判断材料になる可能性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.