九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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左被殻出血により重度右片麻痺を呈した患者に対して,トイレ動作獲得を目指した症例報告
*長埜 樹*藤田 良樹
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p. 23

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抄録

【目的】

今回, 左被殻出血により重度右片麻痺を呈し, トイレ動作時のズボン操作に介助を要した症例を担当した. 小池(2014) らは, 脳卒中後の下衣操作自立に体幹機能が関与すると報告している. トイレ動作自立に向けて, 体幹機能, 麻痺側下肢に対する介入に加え, 課題特異的な付加的介入を行うことで, トイレ動作が自立し, 自宅復帰に至った症例を経験したため報告する.

【症例紹介】

40 歳代男性.X 日, 近所の人が倒れているのを発見し, 当院へ救急搬送され,CT検査後, 脳出血を認め, 開頭血腫除去術を施行.X + 24 日目に当院回復期病棟へ転棟し理学療法を開始した. 自宅復帰に向けて, トイレ動作獲得が必要であった.

【評価とリーズニング】

X + 24 日目では,Functional Independence Measure( 以下,FIM) は39/126点( 運動項目:28/91 点, 認知項目:11/35 点),Stroke Impairment AssessmentSet( 以下, SIAS) 下肢運動機能:1-0-0,Trunk impairment scale( 以下,TIS) は7/23 点であり, 右上下肢に重度麻痺を呈し, 立位保持は支持なしでは困難であった. トイレ動作では, 非麻痺側側方の壁にもたれ立位保持が見守りで可能であったが, ズボン操作に伴う対側へのリーチ動作時, 非麻痺側への体幹側屈や麻痺側骨盤の後方回旋を伴う, 麻痺側後方への転倒リスクを認め, 軽介助を要した. 以上より, 非麻痺側上肢の対側リーチ時の麻痺側下肢での支持性改善や, 立位での体幹回旋運動の改善により, トイレ動作の下衣操作自立を目指した.

【介入と結果】

介入初期は, 独立立位の獲得に向け,Bill ら(2015) の体幹機能への介入を参考に, 背臥位( 膝立て位) での殿部挙上運動や座位での前後左右への重心移動練習を行い, 体幹機能の改善を促した. また, 麻痺側下肢の支持性向上を目的に長下肢装具を使用し, 歩行練習を行った.X + 59 日目では,FIM:55/126 点( 運動項目:41/91 点, 認知項目:15/35 点),SIAS 下肢機能3-2-2,TIS:11/23 点となった.X + 72 日後, 独立立位が可能となり, トイレ動作に求められる立位での正中交差を伴った下方へのリーチ動作など課題特異的な介入を行った.X + 88日後,FIM は71/126 点( 運動項目:56/96 点, 認知項目:15/35 点),SIAS 下肢機能:4-3-3,TIS は15/23 に改善し, トイレ動作では下衣更衣動作時の立位保持が安定し, 終日トイレ自立となった.

【考察】

本症例は, トイレ動作における下衣操作の非麻痺側交差性リーチ時に後方への転倒リスクを認めた.AleXander ら(2016) は, 対側へリーチする際, 重心は反対側へ移動すると報告しており, 正中交差時の麻痺側下肢の支持はズボン操作の安定性向上の要因の1 つと考えられる. また,Van Criekinge ら(2019) は, 体幹治療とリーチ動作の関係をシステマティックレビューにて報告し, リーチ動作の安定化に向けた体幹治療を推奨している. 本症例はTIS やSIAS 下肢機能が低値であったため, 体幹機能, 下肢の支持性改善を図り, 立位安定後に課題特異的な介入を付加的に行うことで, 非麻痺側交差性リーチ時の安定性が向上し, トイレ動作獲得に至ったと考えた.

【倫理的配慮,説明と同意】

症例の本発表に際し, ヘルシンキ宣言に基づき, 対象者には十分な説明と同意を得た.

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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