九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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精神発達遅滞児の大腿骨頚部骨折術後 松葉杖免荷歩行の獲得に難渋した一例
*山口 勇気
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p. 26

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抄録

【はじめに】

精神発達遅滞児は、知的機能のみならず身体的発達や運動機能にも遅れがあることが知られている。なかでもバランス能力は運動能力のうちで、特に劣っているという報告がされている。また、運動操作が下手であり、身体左右側の一側化が確立していない者が多いことが挙げられる。今回、下肢骨折術後の完全免荷期間にリハビリテーション(以下、リハビリ)介入し、自宅退院に向けて松葉杖免荷歩行訓練を行い、自立レベル獲得までに難渋した症例を経験したためここに報告する。

【症例紹介および経過】

13 歳男性。交通事故により受傷。右大腿骨頸部骨折(Delbet-Colonna 分類III型)、骨接合術施行。手術翌日よりリハビリ開始(免荷)。既往歴には肥満症、精神発達遅滞あり。術後3日で平行棒内免荷歩行2往復可能。術後10 日で松葉杖免荷歩行実施してみるが不安定で恐怖心がありステップ不可。術後15 日で松葉杖免荷歩行の最大歩行距離は20m。術後30 日でプッシュアップ( 以下、PU) 訓練と片脚立位訓練追加。術後48 日松葉杖免荷歩行の最大歩行距離は120m。術後60 日で松葉杖免荷歩行は安定してきたがまだ恐怖心あり( 近位見守りレベル)。術後90 日で松葉杖歩行自立レベルまで獲得(恐怖心などの訴えなし)。

【理学療法所見】

( 初期→術後2ヶ月)可動域:右股屈曲70°→ 120°右股外転10°→ 35°、筋力:左下肢GMT4/ 5→4/ 5、右下肢GMT 2/ 5→3/ 5、両上肢筋力:PU 保持5秒未満→ PU 保持20 秒可能、握力:左14kg → 15kg 右7kg →7kg、疼痛:右股運動時痛あり(NRS 5) →運動時痛なし、片脚立位:5秒未満→5秒未満

【アプローチ】

松葉杖の使用が初めてであり転倒に対する恐怖心が強くみられたため、後方から介助下での松葉杖免荷歩行訓練を行った。また、上肢をうまく使えずに肘屈曲、体幹前傾し脇当てに腋窩が接触してしまうためPU 訓練を追加した。次に、歩行時に松葉杖が床面に接地したと同時に健側下肢が宙に浮き、跳ねながら移動する歩容になっていたためPU にて上肢へ荷重し下肢を振り子の様に振り出すように繰り返し指導を行った。また、バランス不良のため片脚立位訓練も追加した。

【結果、考察】

長期間免荷の中で、松葉杖免荷歩行の自立レベル獲得までに術後90 日を要した。一般的に松葉杖免荷歩行自立までには約4. 9±5. 3日を要し、片脚立位時間が松葉杖免荷歩行自立と関連しているとの報告がある。今回の症例は自立レベル獲得までにかなりの期間を要した。原因として、バランス不良。松葉杖操作のぎこちなさを挙げる。本症例においてもバランス不良がみられた。片脚立位時間5秒未満であり免荷に対しての恐怖心の訴えなどもみられた。そのため、松葉杖歩行訓練が進まなかったと考える。また、松葉杖操作においても、一度教えたことをすぐに理解することができずに翌日には忘れてしまい繰り返し訓練をすることが必要であった。バランス機能の低下・運動操作の理解力低下が重なったことが、今回の松葉杖免荷歩行の獲得に難渋した原因であったと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本発表はヘルシンキ宣言に基づき本人、家族の同意を得ている。

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