主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 51
【背景と目的】
肩関節の挙上制限に肩峰下インピンジメント症候群(SIS)があげられる。SIS は、肩甲骨関節窩に対する上腕骨頭上方化がおこる。上腕骨頭上方化の筋性要因は、三角筋と腱板などを中心としたフォールカップルに乱れが生じておこると考えられている。肩関節挙上早期の三角筋は、肩甲骨関節窩と上腕骨がほぼ垂直に位置する関係から、肩甲骨に対し上腕骨をせん断する力として作用する。したがって、挙上運動時の三角筋は、挙上モーメントを生成しながらも、上腕骨頭上方化が過剰とならない出力が求められる。先行研究では、生体にて三角筋や腱板の筋活動が計測されてきた。筋活動の計測は、筋電位の詳細が確認できる反面、三角筋が上腕骨頭にどのような力ベクトルを与えているかは不明である。つまり、三角筋の活動電位と上腕骨頭上方化を直結した問題として考えることができないのである。そこで本研究の目的は、Computer Simulation 解析(CS)を用いることで、三角筋が生成する上腕骨頭上方化力ベクトルを算出し、上腕骨頭上方化力ベクトルを減少させる体幹肢位を検討することを目的とした。
【方法】
CS はAnyBody Modeling System ver.7.3(AnyBody Technology A/S, Aalborg,Denmark)のAnyBody Managed Model Repository ver.2.2.1 にて提供されるBergman GH モデルを用いた。運動課題は、立位での右肩関節の肩甲骨面挙上0-90°の往復運動(8 秒)とした。上腕骨頭上方化力ベクトルは、肩甲骨の固有座標系(肩甲骨関節窩の中心点)に対し三角筋が上腕骨に与えた力の成分から算出した。CS は、目的変数を三角筋の上腕骨頭上方化方向の力ベクトル(N)とし、説明変数を体幹の屈曲角度(-30°から30°の範囲)と側屈角度(右側屈30°から左側屈30°の範囲)とし、各説明変数を10°ごとに変化させながら解析を行った。
【結果】
体幹の屈曲および側屈が0°の正中位は、力ベクトルの大きさは201N であった。上腕骨頭上方化力ベクトルを最小化された体幹の肢位は、体幹後屈30°かつ体幹右側屈30°の肢位であり、力ベクトルの大きさは143N だった。反対に上腕骨頭上方化力ベクトルを最大化する体幹の肢位は、体幹後屈30°かつ体幹左側屈30°の肢位であり、力ベクトルの大きさは265N であった。
【まとめ】
本研究ではSIS 症例に起こりえる問題に対し、三角筋が生む上腕骨頭上方化力ベクトルの面から検討した。体幹肢位の違いによる上腕骨頭上方化力ベクトルの最小と最大値は1.85 倍であった。上腕骨頭上方化力ベクトルが変化した理由としては、運動方程式で影響を与えうる質量や加速度が変わらないことから、体幹の側屈に伴う重力の方向の違いであると考えられた。本研究結果を踏まえたSIS 症例の治療方針としては、体幹の側屈を調整することで上腕骨頭上方化力ベクトルを押さえながらの運動療法が応用できるのではないかと考えている。本研究の限界としては、正常な肩関節の筋出力や肩甲上腕リズムを用いており、SIS 症例を反映していないことに加え、あくまでIn Slico での研究であることがあげられる。しかし、上腕骨頭上方化力ベクトルという生体では直接的に求めることができない数値に対し、CS を用いることで臨床での方向性を示すことができたのではないかと考えている。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では生体における個人情報の一切を取り扱っていない。また、所属先にも倫理審査がいらない旨も確認が行えている。本研究に開示すべき利益相反はない。