九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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鏡視アシスト上方関節包再建術後の理学療法において自動可動域獲得に難渋した一例
*平塚 晃一*村上 智明*中村 篤徳*垣添 慎二*西井 章裕
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p. 52

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抄録

【はじめに】

本症例は一次修復不能な腱板3 腱広範囲断裂( 以下RCT) に対して鏡視アシスト上方関節包再建術( 以下SCR) 及び、肩甲下筋修復術が施行され理学療法を実施した症例である。リハビリ標準算定日数を超えて理学療法を継続していく臨床的意義があったため以下に報告する。

【症例提示】

70 代男性。身長166.5cm、体重83kg、BMI30。現病歴:ラグビー観戦中、右肩にボールが当たり右肩痛が悪化。当院MRI にて一次修復不能なRCT と診断。ADL は何とか行えておりope 希望なく経過観察。次第に痛みでADL に支障を来すようになり再診。当院にてSCR・肩甲下筋修復術を施行。Goutallier分類:棘上筋II、棘下筋III>II、肩甲下筋・小円筋0。術後安静度:肩外転装具sling shot II装着( 約12W)。PO2M 内転・内旋禁止、外旋30°制限。PO3M 下垂位禁止。

【術前評価】

疼痛(NRS):安静時1/10、夜間時1/10、動作時2/10。ROM-t(° ):挙上130、外旋35、内旋L5。Micro FET( 右/ 左;N):外転筋力29.3/43.9( 患健比68.1%)、外旋筋力44.5/26.8( 患健比165.9%)、内旋筋力97.2/78.3( 患健比124.2%)。SSD:左右差なし。JOA:86.5/100 点。shoulder36:痛み3.83、可動域3.67、筋力3.17、健康感3.83、ADL3.43、スポーツ3。

【経過】

PO1D よりPT 開始。肘・手関節・手指ex 開始。PO1W 肩甲帯ex 開始。PO2W 癒着防止ex 開始。PO3W 肩関節他動ROM-ex( 骨頭下方圧排、肩甲骨面上で)・ADL-ex 開始。PO5W 自宅退院。外来PT 開始( 週2)。PO8W 自動挙上ex 開始。PO12W 外転枕off( スリング屯用)。PO6M 挙上100°、外旋30°、内旋S1。何とか挙上可能だが筋力が弱く補助手レベル。MRI:再断裂なし。菅谷分類stage I。PO10M 挙上140°、外旋45°、内旋L3。ADL レベルでの実用手獲得。外来PT 終了。

【介入内容】

術後早期より癒着防止ex・患部外ex を実施。投薬及び、ADL 指導による疼痛管理が奏功し疼痛は早期に消退。PO3W よりROM-ex 開始。脆弱な術部の保護を考慮して徒手的に骨頭求心位を誘導しながら可動域訓練を実施。烏口肩峰下での骨頭取り込みの早期獲得に努めた。拘縮予防が奏功し他動可動域は早期獲得に至った。次に腱板訓練として、棘下筋はPO3W より、肩甲下筋はPO5W より痛みに応じて機能訓練を進めた。肩甲帯訓練も併行して行いcoupling force 獲得に努めた。自動挙上訓練に関しては肩甲骨の代償に配慮しながら仰臥位→傾斜台→立位へと骨頭求心力に応じて段階的にレベルアップした。PO6M 以降はMRI での生着を確認後、漸増性筋力増強訓練へと進めた。

【術後評価(PO10M)】

疼痛(NRS):安静・夜間・動作時0/10。ROM-t(° ):挙上140、外旋45、内旋L3。Micro FET( 右/ 左;N):外転筋力32/43.6( 患健比73.4%)、外旋筋力50.2/44( 患健比114%)、内旋筋力92.9/90.7( 患健比102.4%)。JOA:90/100 点。shoulder36:痛み4、可動域4、筋力3.83、健康感4、ADL4、スポーツ3.5。

【考察】

SCR は良好な臨床成績が報告されている一方で高い再断裂率が報告されており後療法に難渋するケースも少なくない。本症例においても自動可動域獲得に難渋した。幸い再断裂なくADL レベルでの実用手獲得に至ったが術後10 ヶ月を要した。長期化の要因として高齢、広範囲断裂( 肩甲下筋断裂合併あり)、術前脂肪変性によりcoupling force 獲得に時間を要し、アウターとインナーのimbalance が長引いたことがあげられる。期間的妥当性については検討課題である。しかしながら地道なリハビリにて緩徐であるが改善の経過を辿り、特に術後半年以降の伸びは著しかった。本症例を通してリハビリ標準算定日数を超えて理学療法を継続する臨床的意義を痛感した。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき対象者に本発表の趣旨を口頭で説明し同意を得た。開示すべき利益相反なし。

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