主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 53
【症例紹介】
夫婦で農家を営まれ、早期復職希望の60 歳代右利きの女性。脚立作業中に転落し、橈骨遠位端骨折の診断。その際、右肩関節はX 線所見上明らかな骨折等はみられず、橈骨遠位端骨折に対し手術・作業療法(以下、OT)が行われ自宅退院。その後OT 外来継続していたが右肩の疼痛持続しており受傷42 日後に画像撮影にて右肩腱板断裂(棘上筋)の診断を受け、受傷後46 日目に理学療法開始。
【評価とリーズニング】
主訴は『右肩の痛みがあって上がらない』。疼痛は右肩峰周囲をさするように手掌で示す。Numeric rating scale 5/10 程度が右肩関節を動かした際に出現するも、左手で介助すると痛みなく右手を挙げることが可能であった。外傷後の疼痛であり、画像撮影でも骨腫瘍や病的所見はなく、早期復職希望で意欲も高いことから、red flag、yellow flag は除外できると考えた。受傷後46 日経過しており、安静時・夜間時痛もないため、炎症性疼痛による可能性は低いと考えた。介助下の運動では疼痛がないことから収縮性組織により生じる疼痛の可能性が高いが運動検査で確認する必要があると考えた。一方で、疼痛部位が腋窩神経支配領域であり神経性疼痛も否定はできない事に加え、腱板断裂によるImpingement 症候群による疼痛も念頭に置きながら、客観的評価に移った。視診より静的座位は健側に比べ右肩甲骨挙上・前傾位。触診では熱感、腫脹はなく、右肩関節自動屈曲110°『これ以上あげるといたくなる』との訴えあり。その運動は健側と比較すると肩甲骨上方回旋が減少していた。肩甲骨を徒手的に上方回旋位へ誘導しようとすると抵抗感があり、小胸筋と肩甲挙筋に硬化を認めていた。屈曲110°以下での等尺性抵抗運動で疼痛を認めるが、圧迫および牽引での疼痛はなく、他動屈曲は疼痛なく可能であった。Emptycan test、SSP test 陽性。Impingement test 陰性で、Neurodynamics test 陰性で感覚障害も認めていない。Manual Muscle Test は肩甲骨挙上5 肩甲骨外転と上方回旋3 肩甲骨下制と内転4 であった。客観的評価のリーズニングとしてImpingement 症候群や神経性疼痛の可能性は低いと考えた。他動運動時痛はなく自動運動時と等尺性抵抗運動時に疼痛を認めていたことに加え腱板機能テストから棘上筋の筋収縮が疼痛原因と考えた。また、挙上時の肩甲骨上方回旋減少は、触診とMMT から小胸筋と肩甲挙筋の緊張亢進および前鋸筋と僧帽筋下部繊維の弱化により生じていると考えた。この肩甲骨上方回旋減少により棘上筋の過活動が要求され主訴の疼痛、自動挙上可動域制限が生じていると仮説の基、介入へと移った。
【介入内容およびに結果】
小胸筋の緊張軽減、前鋸筋、僧帽筋下部線維の収縮訓練10 回1 セット実施すると、肩甲骨の上方回旋が改善し、疼痛なく即時的に肩関節自動屈曲160°と改善を認めた。受傷60 日目、2 回目来院時は自動屈曲140°であった為、運動回数を3 セットへ増量すると左右差なく自動屈曲180°可能となった。受傷67 日目、3 回目来院の際にも疼痛増強なく維持出来た為、その後は仕事復帰を考慮しセルフマネジメントできるように動作とホームエクササイズを指導し受傷91 日目に理学療法終了となった。
【結論】
本症例は患者の姿勢・運動の評価により肩甲骨上方回旋減少という肩甲骨運動機能障害へのアプローチを行うことで肩関節痛と自動挙上制限に対して改善が得られた。
【倫理的配慮,説明と同意】
患者に十分説明し口頭にて同意を得るとともに、当院の研究倫理審査委員会でも承認を得た(承認番号:学21-0402)