九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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高齢者へのPNF介入による転倒リスク改善効果について
*小田 樹
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キーワード: 高齢者, 転倒, PNF
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p. 64

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抄録

【はじめに】

2040 年には人口が減少傾向となるが65 歳以上の割合は増加すると言われている。このことから、高齢者の健康増進が今後更に必要となることは周知の事実である。また、高齢者における寝たきりの要因の一つに転倒による骨折がある。井上らの報告によると開眼片脚立位、Time Up & Go Test(以下:TUG)、CS - 30、上体起こし、足趾把持力が転倒要因として挙げられると報告している。転倒予防には運動による身体機能の維持改善が有効になることから、様々なトレーニングによる効果が報告されている。また、筋力強化のみならず姿勢に対する効果が期待できる運動としてPNF がある。PNF の中でも特に関節周囲や身体部位の安定性の改善、筋力強化、姿勢コントロールの改善に有効となるものがRhythmic stabilization(以下:RS)である。そこで本研究ではRS を用いて転倒リスクの改善効果を比較検討した。

【対象】

地域在住高齢者7 名を対象とした(男性1 名、女性6 名)。研究の趣旨と方法に関しては十分な説明を行った。また、本研究は研究協力施設の倫理委員会の承認を得て実施した。(承認番号 理―19005)。

【方法】

測定項目は開眼片脚立位、TUG、CS - 30、上体起こし、足趾把持力の5 項目とした。各測定項目を3 日間の介入前後で測定した。RS は対象者にその場を保持するように指示し、ある一定の姿勢から圧を加えることで固有受容器を刺激し神経筋機構を促通する方法である。本研究では1 分間の練習を行ったのち、坐位と立位で両側肩甲帯に前方向の5 秒間抵抗を与え、その直後逆方向からの同様の抵抗に切り替えた。続けて回旋方向に5 秒間の抵抗を与え、その直後逆回旋方向からの同様の抵抗に切り替えることにより、坐位と立位で体幹筋・下肢筋の神経筋活動を促進させた。それぞれの介入前後の比較はpairedt 検定を用いて有意水準は5% とした。

【結果】

TUG・開眼片脚立位・CS - 30・足趾把持力は介入前と比較して、介入後では有意に改善を認めた。一方で、上体起こしは有意差が認められなかった。

【考察】

本研究では、先行研究で報告された5 つの項目に対し、RS を実施しその介入前後で比較検討した。本研究結果よりTUG・開眼片脚立位・CS - 30・足趾把持力の測定値が介入後では介入前と比較して有意な改善を認めた。一方で上体おこしは有意な改善を認められなかった。効果が得られた項目は、RS の効果として報告されている体幹、下肢筋が賦活されたことで安定性・協調性・姿勢コントロールが向上したと考える。しかし、一般的に筋力増強には参加する運動単位の増加や複数の運動単位の同期化など中枢神経系の働きが先行しその後筋肥大によって筋断面積が増加すると言われているため、筋肥大による筋力増強とは考えられず、中枢神経の働きによる筋出力の改善と考える。上体おこしが有意な改善を認められなかった。本研究において、上体起こしの回数が0回の者や肩甲骨を床から離すことができない者がいた。国立スポーツ科学センターによると上体起こしは、無酸素性持久力と瞬発性の筋力の体力要因が関与すると報告している。つまり、本研究において上体起こしの課題そのものを行えない者がいたことや瞬発力を必要とするため、課題が高齢者には不向きである可能性がある。これらのことより、本研究対象者にとって課題そのものの負担が大き過ぎた可能性がある。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を順守して実施し、研究協力施設の承認のもと実施した。また研究の実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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